「相良先輩、いいですね」

親が開場まで送ってくれる生徒は、最初から道着袴を着て会場に来られる。着替えをする手間が省ける。

「まあな。ちょっと外に出てるわ」
「あ、はい」

屈強な男たちでごった返す控室から、相良先輩は出ていった。

「そういえば相良くん、部活でも一緒に着替えたことないな」
「ああ……そうですね」

部活のとき、相良先輩は一番最後に来て、一番最初に帰る。

だれも部室にいないときに着替えているのだ。

俺はふと、勝負の日のことを思い出す。

彼は保健室で、痛めた足を絶対に見せようとはしなかった。

もしかして、事故の傷を見られたくないのかも。

後遺症が残るくらいの怪我だったんだから、縫った跡が残っているのも容易に想像できる。

プライドの高い彼は、自分の痛みを他人には簡単に見せない。

他人に気を遣わせるのも、腫物扱いされるのも嫌なのだろう。

彼は誇り高き絶対君主なのだ。

それ以上はなにも言わず、俺も先輩たちも黙々と着替えを完了し、防具と竹刀を持って一階に降りる。

武道場の中に相良先輩の防具と竹刀袋を見つけ、そこへ自分たちの荷物も固めて置いた。

「相良くんはどこだろう?」

前田先輩が武道場を見回す。