怪我をして、挫折して、でもあんなに強くて輝いている相良先輩は、生まれながらの王者の気質があるに違いない。

俺たち凡人がどれだけあがこうとも、王者の領域にはたどり着けない。

「小池君は自己評価が低いと思うんだよなあ」
「そうですか?」
「相良くんをここまで引っ張ってきたんだもの。それはすごいことだよ」
「うーん……」

どうやら俺が相良先輩を連れてきたと思われているらしい。

説得というか、泣き落としに近かった気がする。

でも本当は、相良先輩自信が剣道をやりたがっていたから、来てくれたんだと思うんだよな。

「俺に付きまとわれたくないから」なんて、大義名分に過ぎないんだ。きっと。

それならもっと適当にやるとか、最悪試合の日だけ来るとかでもよかったはず。

こんなに一生懸命やってくれるのは、相良先輩が剣道を好きだから。

しかも、彼は内緒でリハビリも再開しはじめたらしい。俺にだけこっそり教えてくれた。

「彼、いい顔してる」
「はい……」

俺たちは真剣に二年生に指導する相良先輩を眺めた。

再会した時にはなにも映していなかったような瞳が、今はキラキラと輝いていた。

「相良っちかっこいいー」

開け放たれた武道場入口から、黄色い声が飛んだ。

びっくりしてそちらを見ると、三人の女子が立っていた。

ギャルって言うのかな。みんな顔の横に虫の触覚みたいな髪が出てる。化粧も濃い。