彼は少しずつ練習に参加していて、その剣の鋭さは日に日に増していく。

完全に元通りとは言えないが、中学時代のキレキレ剣道を思い出しつつあるみたい。

しかし、足のことがあるのでムリは禁物。

「手加減してんじゃねーぞ、小池」
「してませんっ」

俺は面を取り、目の周りの汗をぬぐう。

足のことがあるからと言って手加減なんてしたら、瞬殺されてしまう。

ぜえはあと荒い息を整えながら壁際に戻り、水筒の麦茶を勢いよく喉に流し込んだ。

「相良くん、すごいよ。彼のおかげでみんな上手くなってきてる」

隣に来た青谷部長も水を飲む。首に滝のような汗の筋が見えた。

「やっぱり指導者って大事ですねえ」

俺たちはメモを取っている顧問を見る。

彼はいい先生だけど、指導者としては物足りない。

「そうだな。本来なら俺がやらなきゃいけなかったことだけど」

青谷先輩は首筋をぽりぽりと掻いた。

「いやいや……リーダーと指導者は違いますから」

部長という立場上、みんなを引っ張っていかなければならないと思っているのだろう。

それはそうだけど、青谷部長が指導係まで背負うことはない。

「でもわかります。相良先輩を見ていると、自分がすごく小さい存在に感じるんですよね」

自分なりに剣道を頑張ってきたつもりでも、相良先輩と比べるとどうしても劣る。

つもりはつもりでしかなかったのだな、と情けなくなる。