少し落ち着いてから、俺たちは病院前のベンチに座って話をした。

相良先輩が怪我をしたのは、中三の秋。

夏の総体が終わって、すぐだったという。

夜中、自転車で塾へ向かう先輩に、信号無視の車が突っ込んできた。

衝突して自転車から放りだされて全身を打ち意識を失い、気づいたら病院のベッドに寝ていたという。

「ここの九階に入院してたんだ」

相良先輩は背後の建物を指さした。モールの横の総合病院。

『命があっただけよかった』

そう言う周りを見て、先輩は呆然としたらしい。

左足の感覚が、まったくなかったから。

彼が負ったのは、右の大腿骨・膝・足首の骨折。神経やアキレス腱の損傷。

何時間にも及ぶ大手術の末に、なんとか切断は免れた。

全身状態がよくなったら、地獄のリハビリが始まった。

「めちゃくちゃ痛くて、死ぬかと思った」

自分の両足で歩けるようになるために、何か月もかかったと言う。

「あれだけ大怪我したわりには回復が早いって言われたけど、いろいろ間に合わんかった」

相良先輩は遠くをぼんやり見つめる。

そして、俺が買ってきたペットボトルを両手で持ったまま、ぽつぽつと話した。

メンタル激落ちの間に声をかけてくれた剣道仲間を受け入れられず、疎遠になってしまったこと。

確実だと思われていた剣道推薦が受けられなくなり、私立のスポーツ強豪校に入れなかったこと。

目標を失い、入院中していたため勉強も遅れ、とりあえず家から一番近い今の高校に入学したこと。