しばらく泣き腫らしている。
流夏の部屋の前で、三角座りに座って。
けれど、そろそろ動かないといけない。そんな気持ちが勝って、僕は重い腰を持ち上げた。冷蔵庫からたくさんの食材を出して、丁寧に調理していく。
卵のおじや。
それを作ろうと思う。
白だしのいい匂いがキッチンを充満し、優しく鼻腔をつく香りに、次第と落ち着きを取り戻した。
卵を解いて、熱々の鍋の中にかき入れる。
おじやを冷ましている間に、僕は余った食材で、体に良いものを作り続けた。
僕が流夏に出来ることを最大限やろう。
そう思った結果だった。
冷静になって考えてみると、お互いに叶うことのない恋をしている。流夏は存在しない人に恋焦がれているのだ。
僕よりも、もっと残酷かもしれない。
そして丁寧にラップをかけた後、僕はすっかり冷め切ったおじやを温め直した。
お盆に、スプーンとお茶碗と、風邪薬を乗せる。
「流夏、入るね」
小さく扉の前で呟いて、僕は扉を開いた。
そこには小さく息を吸って、気持ちよさそうに寝ている流夏がいた。
あんなに大好きな流夏の顔が、存在が、今は辛い。
そして流夏の手には、あの手紙が握られていた。
僕は、起こさないようにそっと、ベッドの脇の机にお盆を置いた。
そして僕は、流夏を見た。
街頭の光だろうか。
カーテンの隙間から漏れる柔らかな光が流夏を彩って、やっぱり言葉では伝えきれないほどに綺麗だった。
僕はベッドの脇に座る。
流夏は、目覚める予感がなく、深い眠りに落ちていた。
そして気がつけば、僕は震える指先で、流夏の手に触れていた。熱があるからか、その手は熱い。だけど今はこの熱さが心地よかった。
触れているだけの指先は、いつしか手のひらへと移り変わる。
「流夏……っ」
僕が呟いたその言葉は、誰の耳にも届かずに消えていく。
そして僕は、流夏の手のひらを握って、精一杯、抱きしめた。流夏の体に頭を埋めて、その存在を一番近くに手繰り寄せる。
どうして、こんなことをしているのか分からない。
それでも、叶わないって分かっていても、流夏のことが恋しくて仕方ない。
行き場のない雑踏のように、僕はただ抱きしめ続けた。
そしてその温もりを全身に伝った後、僕はお盆を残して、流夏の家を去った。
アパートの外は、冷え切っていて、風が冷たくて、静かで、ただ街灯のぼんやりとした光が道を照らし続けていた。
流夏の部屋の前で、三角座りに座って。
けれど、そろそろ動かないといけない。そんな気持ちが勝って、僕は重い腰を持ち上げた。冷蔵庫からたくさんの食材を出して、丁寧に調理していく。
卵のおじや。
それを作ろうと思う。
白だしのいい匂いがキッチンを充満し、優しく鼻腔をつく香りに、次第と落ち着きを取り戻した。
卵を解いて、熱々の鍋の中にかき入れる。
おじやを冷ましている間に、僕は余った食材で、体に良いものを作り続けた。
僕が流夏に出来ることを最大限やろう。
そう思った結果だった。
冷静になって考えてみると、お互いに叶うことのない恋をしている。流夏は存在しない人に恋焦がれているのだ。
僕よりも、もっと残酷かもしれない。
そして丁寧にラップをかけた後、僕はすっかり冷め切ったおじやを温め直した。
お盆に、スプーンとお茶碗と、風邪薬を乗せる。
「流夏、入るね」
小さく扉の前で呟いて、僕は扉を開いた。
そこには小さく息を吸って、気持ちよさそうに寝ている流夏がいた。
あんなに大好きな流夏の顔が、存在が、今は辛い。
そして流夏の手には、あの手紙が握られていた。
僕は、起こさないようにそっと、ベッドの脇の机にお盆を置いた。
そして僕は、流夏を見た。
街頭の光だろうか。
カーテンの隙間から漏れる柔らかな光が流夏を彩って、やっぱり言葉では伝えきれないほどに綺麗だった。
僕はベッドの脇に座る。
流夏は、目覚める予感がなく、深い眠りに落ちていた。
そして気がつけば、僕は震える指先で、流夏の手に触れていた。熱があるからか、その手は熱い。だけど今はこの熱さが心地よかった。
触れているだけの指先は、いつしか手のひらへと移り変わる。
「流夏……っ」
僕が呟いたその言葉は、誰の耳にも届かずに消えていく。
そして僕は、流夏の手のひらを握って、精一杯、抱きしめた。流夏の体に頭を埋めて、その存在を一番近くに手繰り寄せる。
どうして、こんなことをしているのか分からない。
それでも、叶わないって分かっていても、流夏のことが恋しくて仕方ない。
行き場のない雑踏のように、僕はただ抱きしめ続けた。
そしてその温もりを全身に伝った後、僕はお盆を残して、流夏の家を去った。
アパートの外は、冷え切っていて、風が冷たくて、静かで、ただ街灯のぼんやりとした光が道を照らし続けていた。