「いらっしゃいませ」
店の奥から引っ張り出してきた段ボール箱を開け、中に詰まった新しい商品を一つ一つ丁寧に取り出していく。
それらの作業は随分手慣れたものだと自画自賛したくもなるけど、私はまだ店長の信頼を得られていないのだと溜め息も吐きたくなる。
「若芽さん」
「はいっ!」
商品を傷つけないように慎重に扱いながら作業を進めていると、若芽さんは店長から信頼のご指名が入った。
(これが正社員と、準社員の差なのかな……)
三十手前にもなれば正社員に昇格できるのかななんて甘い考えで、学生のときから務めている百円ショップは今日も私の人生に変化を与えてくれない。
(でも……)
転職という選択を選ばなかったのは、自分。
準社員って肩書に甘えて、いつかは人生変わるんじゃないかと期待していたのは自分。
自分の人生に責任を取るのが自分だというのなら、しっかりと責任を取るために生きてみるのが大人ってものなのかもしれない。
(若芽さんとのご飯を楽しみに生きよ……)
彩り豊かなメガネスタンドが眼鏡用品売り場にあることを確認して、今日も私は一点一点の商品を丁寧に手に取り、棚へと陳列していく。
(今日のお弁当は……)
社員の皆様よりも先に、休憩時間をいただく。
食事時間に楽しみなんてなかった私だけど、最近ではこの食事時間に癒しをもらっているような気がする。
毎日お弁当を作ることの大変さに感謝しながらお弁当箱を開くと、若芽さんは今日も私に食を通しての驚きを提供してくれる。
(焼きそば!)
自分でご飯を作ることが面倒になってからというもの、食への関心すら薄れてしまった。
お弁当箱に詰め込むものは白いご飯だと思い込んでいた凝り固まった思考は崩され、若芽さんから渡されたお弁当箱の中には野菜の彩りが加えられた焼きそばが敷き詰められている。
(そっか、こうすれば野菜も一緒に摂取できるんだ……)
余計な水分が抜けきった麺のおかげで、べちゃっとした焼きそばというイメージが覆された。
ソースの香ばしさが鼻を突き抜け、次から次へと口へ運んでしまう魔性の魅力が付属された焼きそばに感動してしまう。
(なんで、こんなに麺がもちっとしてるんだろ)
さすがの料理好きの若芽さんでも、麺から手作りしているはずがない。
市販の焼きそばを炒めただけだとは思うけれど、この美味しさは一体どこからくるのか想像もできない。
(若芽さんがいたら、感想、伝えられるんだけど……)
隣を見ても、後ろを振り返っても、若芽さんはいない。
休憩時間が重ならない限り、私と若芽さんの食事時間が一緒になることはない。
(一緒にご飯を食べる人がいないって、寂しいのかも)
可愛いという枠組みからはみ出た私は、いわゆるお一人様というものに慣れていた。
どのお店に入るにしても、勇気を整える準備すら必要なく入店することができる。
ただ、これが食べたいっていう気持ちが存在しなかった。
通りかかった店で食事をする。
これが、今までの私だった。
(お一人様も悪くない)
一人でいられることの楽さを知ってしまったら、結婚っていう選択肢が人生からなくなってしまう。
そういう人生を悪いと思ったことがないから、今日まで独り身のまま生きてきた。
(でも、話し相手がいるっていいかも……)
口にする食材たちの味に、何か物足りなさを感じてしまう違和感。
若芽さんとの食事時間を楽しいものだと思っていたからこそ、今日に限っては寂しいって感情に気づいてしまったのかもしれない。
「調理されてない食品を買うのなんて、何年ぶり……?」
「シフトが遅いと、作るのも面倒になっちゃいますよね」
「そう! だから、自炊をしようとしている若芽さんは偉いよ」
本日の夕飯の買い物を済ませるために、私と若芽さんは大型ショッピングセンターの中の食品売り場に足を向けた。
夕飯の買い物時間というものを大幅に超えた時間帯のため、賑わいを失った食品売り場は少し閑散としていた。
「では、森永さん、鶏ひき肉をお願いできますか」
「了解っ」
仕事終わりは肩の力を抜いていいこともあって、体への疲労感が一気に出てしまう。
重くなってきた瞼をしっかり支えながら、このあとに待っている若芽さんの手料理に想いを馳せたい。
(鶏ひき肉……そぼろ丼……?)
まだ新卒ほやほやの若芽さんにとっては、もうすぐ時計の針が次の日を迎えようとしていてもハンバーグの一つや二つは余裕で食べられるのかもしれない。
(ちょっと重いかなー……)
夕飯を作ってもらう身分で、こんなわがままが出てくるのも申し訳ない話ではある。
でも、年齢差ってものは結構、体に響いてくる。
(この間、天ぷら定食を食べてたって考えると……若い人は、少し重めのものを食べたいってことだよね)
なるべく脂身の少ない鶏ひき肉を選んで、これから鶏ひき肉を体内に入れる覚悟を決める。
店の奥から引っ張り出してきた段ボール箱を開け、中に詰まった新しい商品を一つ一つ丁寧に取り出していく。
それらの作業は随分手慣れたものだと自画自賛したくもなるけど、私はまだ店長の信頼を得られていないのだと溜め息も吐きたくなる。
「若芽さん」
「はいっ!」
商品を傷つけないように慎重に扱いながら作業を進めていると、若芽さんは店長から信頼のご指名が入った。
(これが正社員と、準社員の差なのかな……)
三十手前にもなれば正社員に昇格できるのかななんて甘い考えで、学生のときから務めている百円ショップは今日も私の人生に変化を与えてくれない。
(でも……)
転職という選択を選ばなかったのは、自分。
準社員って肩書に甘えて、いつかは人生変わるんじゃないかと期待していたのは自分。
自分の人生に責任を取るのが自分だというのなら、しっかりと責任を取るために生きてみるのが大人ってものなのかもしれない。
(若芽さんとのご飯を楽しみに生きよ……)
彩り豊かなメガネスタンドが眼鏡用品売り場にあることを確認して、今日も私は一点一点の商品を丁寧に手に取り、棚へと陳列していく。
(今日のお弁当は……)
社員の皆様よりも先に、休憩時間をいただく。
食事時間に楽しみなんてなかった私だけど、最近ではこの食事時間に癒しをもらっているような気がする。
毎日お弁当を作ることの大変さに感謝しながらお弁当箱を開くと、若芽さんは今日も私に食を通しての驚きを提供してくれる。
(焼きそば!)
自分でご飯を作ることが面倒になってからというもの、食への関心すら薄れてしまった。
お弁当箱に詰め込むものは白いご飯だと思い込んでいた凝り固まった思考は崩され、若芽さんから渡されたお弁当箱の中には野菜の彩りが加えられた焼きそばが敷き詰められている。
(そっか、こうすれば野菜も一緒に摂取できるんだ……)
余計な水分が抜けきった麺のおかげで、べちゃっとした焼きそばというイメージが覆された。
ソースの香ばしさが鼻を突き抜け、次から次へと口へ運んでしまう魔性の魅力が付属された焼きそばに感動してしまう。
(なんで、こんなに麺がもちっとしてるんだろ)
さすがの料理好きの若芽さんでも、麺から手作りしているはずがない。
市販の焼きそばを炒めただけだとは思うけれど、この美味しさは一体どこからくるのか想像もできない。
(若芽さんがいたら、感想、伝えられるんだけど……)
隣を見ても、後ろを振り返っても、若芽さんはいない。
休憩時間が重ならない限り、私と若芽さんの食事時間が一緒になることはない。
(一緒にご飯を食べる人がいないって、寂しいのかも)
可愛いという枠組みからはみ出た私は、いわゆるお一人様というものに慣れていた。
どのお店に入るにしても、勇気を整える準備すら必要なく入店することができる。
ただ、これが食べたいっていう気持ちが存在しなかった。
通りかかった店で食事をする。
これが、今までの私だった。
(お一人様も悪くない)
一人でいられることの楽さを知ってしまったら、結婚っていう選択肢が人生からなくなってしまう。
そういう人生を悪いと思ったことがないから、今日まで独り身のまま生きてきた。
(でも、話し相手がいるっていいかも……)
口にする食材たちの味に、何か物足りなさを感じてしまう違和感。
若芽さんとの食事時間を楽しいものだと思っていたからこそ、今日に限っては寂しいって感情に気づいてしまったのかもしれない。
「調理されてない食品を買うのなんて、何年ぶり……?」
「シフトが遅いと、作るのも面倒になっちゃいますよね」
「そう! だから、自炊をしようとしている若芽さんは偉いよ」
本日の夕飯の買い物を済ませるために、私と若芽さんは大型ショッピングセンターの中の食品売り場に足を向けた。
夕飯の買い物時間というものを大幅に超えた時間帯のため、賑わいを失った食品売り場は少し閑散としていた。
「では、森永さん、鶏ひき肉をお願いできますか」
「了解っ」
仕事終わりは肩の力を抜いていいこともあって、体への疲労感が一気に出てしまう。
重くなってきた瞼をしっかり支えながら、このあとに待っている若芽さんの手料理に想いを馳せたい。
(鶏ひき肉……そぼろ丼……?)
まだ新卒ほやほやの若芽さんにとっては、もうすぐ時計の針が次の日を迎えようとしていてもハンバーグの一つや二つは余裕で食べられるのかもしれない。
(ちょっと重いかなー……)
夕飯を作ってもらう身分で、こんなわがままが出てくるのも申し訳ない話ではある。
でも、年齢差ってものは結構、体に響いてくる。
(この間、天ぷら定食を食べてたって考えると……若い人は、少し重めのものを食べたいってことだよね)
なるべく脂身の少ない鶏ひき肉を選んで、これから鶏ひき肉を体内に入れる覚悟を決める。