友達から好きな人いないのと尋ねられた時、いつも、あなたの顔を浮かべていました。あなたのようになりたいと思って生きていました。勇気を振り絞って手紙を書いています。

 あなたは私の憧れの人。もし良ければ、お友達になって下さい。

        ※

「えっ、嘘だろう。信じらんない……」

 顎を上げて、便所の壁にガクンともたれかかると、深呼吸をして息を整えていった。

 個室の中で呆然としながら手紙の文字を見つめる。トイレの個室の中で動けなくなっていた。馬鹿みたいにポカンと口を開けるしかなかった。

「マジかよ?」

 高円優奈と名前が記されている。確かに、中学生の頃の高円さんは眼鏡をかけていた。本人は太っていたというけれどオレはそうは思わなかった。顔が赤ちゃんみたいに丸くて肌が白くてフンワカしていて可愛らしい。

 音楽の時間、高円さんが澄んだ声で歌っていたのを覚えている。

 貧乏な暮らしに追い詰められて喘いでいた。コンプレックスで錆び付いた気持ちを持て余していた。オレは強い人間じゃない。本当のオレはカッコ悪い。

 それなのに、こんなオレを好きだと言ってくれる。ありがとう、嬉しくて魔法のように自然に口角がピッと上がる。

 笑って生きよう。笑うと福が来るって誰かが言っていた。だから、もう落ち込むのはやめよう。

 おおーーーっ。夏が始まった。

 新鮮なサイダーの泡のように純粋な喜びが胸を満たしている。オレは、幸福の息吹に押し出されるようにして走り出していったのだった。


   

          おわり