こいつは、ブランドマークのついた靴下やハンカチを平気で捨てていた。豪華な弁当やサンドイッチも気紛れに食べ残していた。こいつは、いつも文句ばっかり言っていた。退屈そうにしていた。てめぇは何様だ。クソ野郎! 

 みぞおちの辺りに疼くものを吐き出すようにして言う。

「あの頃のオレは腹を空かせていたんだよ。デカイからって得することなんて何もなかったよ。制服も普段着も、安い古着を買うけど、サイズがなくて不便だった。おまえのような体形なら大量に売られているけどな、オレみたいに肩幅が広いとサイズが合わないんだよ! それに、たまには家族揃って映画館やディズニーランドに行ってみたかったんだよ!」

 オレの愚痴が止まらない。理性の堤防が決壊しているのか、しみったれたことを口走っている。でも、構うもんか。こいつと会う事もない。呪いに満ちた言葉を聞きやがれ!

「氷点下になる冬だって灯油が買えないからガタガタ震えていたんだぞ。おまえが、ぐっすり眠っている時刻にマフラーを巻いて新聞を配ってたんだぞ! 本当は、早起きなんてしたくなかったんだよ!」

 ずっと村上のことが羨ましかった。

「ハワイのビーチで正月を過ごすなんて夢の様な話だぞ。ハワイの土産をクラスメイトに渡していたおまえに妬まれる筋合いは無いんだよ!」

 荒んだ眼差しでギロリと睨むと、奴は、ほうら見た事かと言いたげな笑みを浮かべたのだ。

「けっ。やっぱり、おまえもオレの事が嫌いだったんだな。そんな気がしていたんだ。やっと本音が聞けたな」

 なぜか、楽しそうに肩を揺らして笑っている。この瞬間、オレの頭の片隅で閃光が走った。

「何が可笑しいんだよ!」

「この際だから、こっちも正直に言わせてもらうわ。バレンタインの日の朝、オレの好きな女の子がチョコレートを手渡してきたんだよ。でもな、親友の女子の代わりに持ってきただけだったのさ。期待したオレが馬鹿だった。こんな屈辱ってあるか。情けなくなって投げ捨てたら、おまえが説教してきやがったのさ。マジで、うざかったぜ」

 失恋? 聞いてみなければ分からない。さすがに気の毒な気はするが……。

「おまえが好きな女の子って誰なんだ?」

「絶対に言うもんか」

 その時、背後で女子の声が聞こえてきた。振り向くと、下校中のジャージ姿の女子達が公園入り口からこちらを目指して歩いてくる様子が見えた。

 村上が言った。

「とにかく、この話はもう終わりにしよう」

 彼女達も常連客らしい。村上がニッと笑いながら告げた。

「稼いだ金を溜めて、いずれ、自分の店を出すつもりなんだ。でも、今は、儲けは少ない。電気代を払うのにも苦労してる」

「大変だな」

 すると、村上は瞳に熱を込めながら言い切った。

「いいや、楽しいぜ。負け惜しみじゃないさ。前は、何をやってもつまんないと思ってたが今は違う。客商売が向いてると気付いたんだよ。将来、店を持ちたいと思ってる」