「してねぇーよ。生活するので精一杯だからな。以前は、豪華なタワーマンションに住んで別荘やクルーザーも持ってたっていうのに、このザマだよ。色々、予想外のことが起きたのさ」

 自嘲的に語っているというのに村上の声は澄んでいる。そのことに驚いて目を見張っていると、彼はツラツラと流れるように語った。

「母親が肝臓が悪くて入退院を繰り返している。うちには金が無い。母親と妹とオレの三人で暮らしている。畳敷きの事故物件のアパートだ。やっべぇことに床が傾いている。ビー玉が転がる。笑えるぜ。夏になると蒸し暑くてたまんねぇ。早くエアコンをつけたい。妹には不自由させたくない」

「分かるよ。その気持ち。オレにも妹がいるからな」

「同情してるのかよ。うぜぇな。マリオ、おまえ、相変わらず癪に障るぜ」

 なぜ、そんなことを言われなくてはならないのだろう。しかし、毒舌は止まらない。

「おまえは、そこにいるだけでオレのプライドをペシャンコにするんだよ」

 相変わらず皮肉な薄笑いを浮べ続けている。

「オレにないものを持っていやがる。うぜぇ、うぜぇよ。オレは、おまえのことが、心底、嫌いなんだよ。オレは、バスケット部員なのにチビで百七十センチしかなかったんだぜ。でも、おまえはデカイくて手脚が長かった。バスケ部の部長はおまえを狙っていた。部員にしようとしていたが、おまえは、ヘラヘラ笑いながら断りやがった。まず、オレは、その時点でおまえが気に食わなかった」

 とんだ言いがかりである。カッとなり言い返していた。

「他にもデカイ奴はいるだろう」

「つーか、おまえは、オレが好きな女の子に好かれていたんだよ。あの子は、いつもおまえを見ていたんたよ」

 身に覚えはない。オレは問いかけるような顔つきで目を丸める。

「その娘は、学校一のイケメンのオレのことなんて眼中になかったんだ。ムカつくぜ。やっぱり、今も、おまえの事は気に入らない。生理的にムカつくんだよ」

「……それは逆恨みっていうんじゃないのか?」

 オレとしては精一杯の嫌味を返してやったつもりだった。

「そうかもな。マリオ、おまえは、オレを惨めな気持ちにさせる存在なんだよ。オレが、どんな気持ちでおまえを見上げていたかなんて分からないだろうな」

「……ふざけんな!」

 プツンッ。頭の中で何かが切れたオレは目を歪めて噛み付いた。

「村上、おまえこそ目障りだったんだよ。金持ちで生活の苦労なんて知らなかったじゃないかよ。高価なチョコレートもゴミ箱に投げ捨てていたよな!」

 いや、それだけじゃない。まだ使えるシャープペンシルや筆箱も簡単にゴミ箱に捨てていた。こいつは、年に何回も新しい高い靴を買って見せびらかしていたのだ。

「オレは穴の空いた靴下を履いていたんだよ! 食器も手提げ袋もは百円均一だ。これ以外に使った事はない。パンツに穴が空いたら繕って使ってきたんだよ」