二千円、ホームレスに返さなくちゃいけないのに、あの人はどこに行ったのか分からずじまいなのだ。オレはホームレスを救おうとして大怪我を負った。もう、それで恩返しをしたことにしようかと思ったりしたが、でも、やはりお金はきちんと返したかった。 

 公園のベンチに座っているとクレープを手にしている女子高校生が横切った。三人組の女の子達の声はフアフアと甘酸っぱく弾んでいる。黄色い声響かせながら、なにやら浮かれている。

 これから、コンサート会場に向かうかのようにキャピキャピしている。

「うっひょー。王子、今日も可愛いかったねぇ」

「やばい、やばーーい。王子、最高だわ」

 彼女達の視線の方向を辿ると、図書館前の広場スペースにパステルピンクのキッチンカーが停まっていた。複数の女子高校生がクレープを買っている。キッチンカーの対面にベンチがあり腰掛けてる四人の女の子が頬を崩している。

「やっぱ、村上王子って感じいいよね」

「うん、笑顔が最高だわ。目が合うとニコッって笑ってくれるの」

「村上王子の笑顔で癒されるわ~ 王子のおかげで元気が出るわ~」

「つーか、このクレープ、マジで美味しい」

 女子達があまり褒めているものだから、オレもクレープというものを食べてみたくなった。財布の中には五千円が入っている。ちなみに、スマホの電子マネーも使えるし、交通系のカードも所持している。自分の意志で自由に買い食いできる。他の人達が当たり前にやっている事なのに贅沢をしているように感じながらキッチンカーに近寄っていく。

 だが、オレの心臓がズキンと嫌な音を立てた。まさかと思った。

「村上……」

 そこにいたのは村上だった。あいつに殴られた事を思い出し悪魔から呪いにかけられたかのように棒立ちになっていると向こうから語りかけてきた。

「マリオ、何しに来た?」

 不躾な眼差しと横柄な口調は昔と同じ。独特の攻撃的な態度にムッとしながら言い返していく。

「女の子達が美味しそうに食べていたから来た。バイトしているのか?」

「バイトじゃねぇよ。これが本業だ。手製のパウンドケーキも売ってる。オレ、こう見えて菓子作りが得意なんだぜ」

 オレは目を丸くしたまま呟いた。

 まさか、こんな場所でオレの人生を壊した村上と出くわすとは思ってもみなかった。

 何年も根に持つのもどうかと思うのだが、こいつのことは許したくない。今も腸が煮えくり返っている。キッチンカーから引きずり出して薙ぎ倒してしまいたいとさえ思う。暴力沙汰を起こすと家族に迷惑がかかるので気持ちを押さえる。

 とりあえず、カウンター越しに一番人気のクレープとやらを注文してみた。

 税込みで七百円。これが高いのか安いのか分からない。人生において初めてクレープという食い物を買うことになった。こういう場所に来るとなぜか緊張する。

 村上は美味しそうなクレープの生地を滑らかな所作で焼きながら言った。

「マリオ、おまえ、ずいぶんと変わったな」

「えっ、どこがだよ?」

「髪型が違うじゃん。昔は坊主頭だっただろう」