「きっと不幸丸出しの貧相な顔だよ」
「いやいや、もしかしたら、すんげい美形かもよ! あたし、少年は、実はイタリアの有名ブランドの会長の孫だったっていう小公女みたいな話にして少年を救ってやったよ」
「あたし、フランダースの犬みたいな話にしちゃったよーん。苦難の末に死にしましたって話にしたの。オーディション会場の前日に牛乳配達の途中で子猫を助けようとして交通事故で死ぬの。書いてるうちに筆が乗ってきて泣けてきた」
「やだー。そんなの可哀想じゃん」
彼女達は妄想を披露しながらも無責任に笑っている。オレの不幸が萌えの対象となるのは、やるせない。登場人物をイニシャルにしているし、もちろん、オレの名前も明かしていない。読み上げた先生も、まさか、その時の貧困少年がここにいるとは気付いていない。
「血を流す少年の隣で子猫が割れた瓶から流れるミルクを舐めるってのはどうよ。少年は薄れていく意識の最中、ステージで脚光を浴びる晴れ姿の幻影を見ちゃうの。猫の金色の瞳に少年の遺体が映って物悲しく終わるとか、どうよ! それを少年の親友のKか見つけて抱きかかえて号泣するのよ。おまえを愛してるーーーって」
「きゃーーーー。それ、いい! 悲しいわ! 尊いわ!」
なぜか、BLの展開になっている。
ちなみに、オレは新聞配達をしていたが牛乳は配達はしていない。彼女達の一人が不思議そうに言った。
「あの先生、あたしらに妄想の作文を書かせて何の採点をしているのかな?」
「文芸部の顧問なんだわ。きっと、才能ある子の発掘をしてんだよ。読書感想文とか小説を書かせるのってハードルが高いじゃん。でも、好き勝手な妄想を描くとなるとハードルが低いでしょう」
「へーえ、そういうことか」
「つーか、あたし、貧乏な少年にインタビューしてみたいな。現在のあなたは幸せですかって聞いてみたいわ」
「ホームレスにお金を返したのかどうかも気になるよね。つーか、ダンスの腕前はどんな感じなのかな」
「ひょっとしたら、華麗にデビューしてるかもしれないよ」
「そう言えば、こないだデビューした、『アライブ』のボーカルの甲斐くんも貧乏だったって話していたよ。あれ、もしかして、作文の男子の友達じゃね?」
「それにしても、妹のパンツの穴をチマチマと繕う兄ってさ、ちょっとキモいよね。さすがに引くわぁーー」
いたたまれなくなり、オレは耳を塞ぎたくなった。そろりと教室を見回していると、一人の女の子の横顔が視界に入った。
窓際の自分の席に高円さんがポツンと座っている。穢れ無き瞳を不安定に揺らしたまま、どこか遠いところを見るようにして何かを考えている。モップを握ったまま注視しているオレの視線に気付くと、彼女はハッと慌てたように目を逸らしたのだ。
高円さんはオレと同じ中学出身で同じ区で暮らしている。さすがに、彼女は真実に気付いているかもしれない。困ったなと情けない気持ちのまま嘆息する。高円さんを見ていると、オレの気持ちはあの頃へと一気に引き戻されていく。
「いやいや、もしかしたら、すんげい美形かもよ! あたし、少年は、実はイタリアの有名ブランドの会長の孫だったっていう小公女みたいな話にして少年を救ってやったよ」
「あたし、フランダースの犬みたいな話にしちゃったよーん。苦難の末に死にしましたって話にしたの。オーディション会場の前日に牛乳配達の途中で子猫を助けようとして交通事故で死ぬの。書いてるうちに筆が乗ってきて泣けてきた」
「やだー。そんなの可哀想じゃん」
彼女達は妄想を披露しながらも無責任に笑っている。オレの不幸が萌えの対象となるのは、やるせない。登場人物をイニシャルにしているし、もちろん、オレの名前も明かしていない。読み上げた先生も、まさか、その時の貧困少年がここにいるとは気付いていない。
「血を流す少年の隣で子猫が割れた瓶から流れるミルクを舐めるってのはどうよ。少年は薄れていく意識の最中、ステージで脚光を浴びる晴れ姿の幻影を見ちゃうの。猫の金色の瞳に少年の遺体が映って物悲しく終わるとか、どうよ! それを少年の親友のKか見つけて抱きかかえて号泣するのよ。おまえを愛してるーーーって」
「きゃーーーー。それ、いい! 悲しいわ! 尊いわ!」
なぜか、BLの展開になっている。
ちなみに、オレは新聞配達をしていたが牛乳は配達はしていない。彼女達の一人が不思議そうに言った。
「あの先生、あたしらに妄想の作文を書かせて何の採点をしているのかな?」
「文芸部の顧問なんだわ。きっと、才能ある子の発掘をしてんだよ。読書感想文とか小説を書かせるのってハードルが高いじゃん。でも、好き勝手な妄想を描くとなるとハードルが低いでしょう」
「へーえ、そういうことか」
「つーか、あたし、貧乏な少年にインタビューしてみたいな。現在のあなたは幸せですかって聞いてみたいわ」
「ホームレスにお金を返したのかどうかも気になるよね。つーか、ダンスの腕前はどんな感じなのかな」
「ひょっとしたら、華麗にデビューしてるかもしれないよ」
「そう言えば、こないだデビューした、『アライブ』のボーカルの甲斐くんも貧乏だったって話していたよ。あれ、もしかして、作文の男子の友達じゃね?」
「それにしても、妹のパンツの穴をチマチマと繕う兄ってさ、ちょっとキモいよね。さすがに引くわぁーー」
いたたまれなくなり、オレは耳を塞ぎたくなった。そろりと教室を見回していると、一人の女の子の横顔が視界に入った。
窓際の自分の席に高円さんがポツンと座っている。穢れ無き瞳を不安定に揺らしたまま、どこか遠いところを見るようにして何かを考えている。モップを握ったまま注視しているオレの視線に気付くと、彼女はハッと慌てたように目を逸らしたのだ。
高円さんはオレと同じ中学出身で同じ区で暮らしている。さすがに、彼女は真実に気付いているかもしれない。困ったなと情けない気持ちのまま嘆息する。高円さんを見ていると、オレの気持ちはあの頃へと一気に引き戻されていく。