この帝と名乗る男は、なぜ、こんなにも自分に対して敵意剥き出しにしているのだろうかと、糢嘉は今、現状を理解しようとしていた。
 糢嘉は帝が恨みながら言い放つ、その古傷のことすら知らない。
〝初対面〟の人からこんなにも怒りを買われるだなんて糢嘉の立場からしたらはた迷惑な話だ。
 ああ、でも、もしも抜け落ちてしまった時間に帝と出会っていたとしたらどうすればいいのだろうか。
 もし、過去に糢嘉が帝をここまで激怒させてしまうようなことをしてしまったとしたならば、糢嘉は帝に深々と頭を下げて謝罪するべきだろう。
 とりあえず、糢嘉は帝のことをじっくりと観察してみようと思った。
 こうして真正面から見てみると実に美男子だ。
 いつ、糢嘉は帝と出会ったのだろうか。
 自分では何一つも思い出すことができないから、何か一つでも情報が欲しいと糢嘉は思う。
 今、この目の前にいる高校二年生の帝のことも抜け落ちてしまう前にメモしておいたほうがいいのかもしれない。
 糢嘉は鞄からスマートフォンとノートを取り出した。
 そして今朝から己の身に起きた記憶の糸を手繰(たぐ)り寄せる。
 起床して顔を洗い、制服に着替えてから朝食を食べた。そのあと歯を磨いたこともしっかりと覚えている。
 いつも通りに電車に乗り、それから、それから……?
 心臓は乱れることなくいたって通常の働きを維持しているのに、頭が割れるように痛い。足元がフラフラとして上手く立っていられない。
 ああ、また、ぽっかりと抜け落ちてしまった。
 糢嘉の右隣にはクラスメイトの永倉弥宵が立っている。そして左隣には美人だけども天然な滝寺結歌璃もいる。
 クラスで有名な美男美女と自分はこんなところでいったい何をしているのだろうかと糢嘉は頭を抱えて考え込むが何もわからない。
 糢嘉はぼんやりとした瞳で弥宵のほうにゆっくりと顔を向けた。

「俺は永倉とこんな所でいったい何をしているんだ?」

 そうして、急激な眠気に襲われた糢嘉の瞼は重く閉じられてしまった。