学園祭を次週に控えたある日、麗は部活の始まる時間に合わせて部員たちにアナウンスをした。

「今年は日程上、コンクールの前に学園祭があります。ですからメンバーに選ばれた方は、コンクールのリハーサルとして舞台で演奏していただきます。最初に混成八重奏、それから私たちフルートの三重奏の順番なります」

演奏メンバーの部員たちはいっせいに「はいっ!」と歯切れのよい返事をする。

「演奏の開始はプログラム上、午後五時半ですから日没の頃でしょうね。夕暮れ時に演奏できるなんて、とてもロマンチックですよね」

皆、ため息にも似た感嘆の声をあげた。

それから麗は混成八重奏グループのリーダーである北川に尋ねる。

「ところで北川さん、コンクールの選曲は『インパルシブ』でよかったですよね」

北川は椅子からすっと立ち上がり、威風堂々とした様子で言う。すっかりリーダーの貫禄がついたようだ。

「はい、皆、練習熱心ですし、曲もだいぶ完成しています」

「そうですか。それでは演奏の編成を教えてもらえないかしら」

すると北川が言うには混成八重奏は次の編成だった。

トランペット――北川、ホルン――大野、サクソフォン(ソプラノ)――山村、サクソフォン(アルト)――有賀、サクソフォン(バリトン)――西山、トロンボーン――水無月、チューバ――南野、パーカッション――深井。

「いいわね、みんな得意なのがきっちりはまっているわね。私たちは『想い出は銀の笛』ですから、この選曲は対照的な雰囲気で聴衆を飽きさせないわ。涼太はどう思う?」

「異論なしだ。俺たちのグループは、説明の必要はないよな」

ごく自然に拍手が沸き起こる。楽器と奏者の絶妙な組み合わせに対する賛同を意味している、文句なしの拍手だった。

けれど、はるかだけは北川の選曲に別の意味を感じていた。インパルシブ――「衝動的」という意味を持つその曲は、まるで北川が菜摘に対して衝動的にしたことの後悔や呵責、そして失敗を認めて乗り越えようという、強い意志があるように思えた。菜摘もそのことをわかっていて北川と選曲したのではないかと察した。

菜摘も北川先輩も大丈夫、きっと上手に演奏できる。菜摘はまだあたしのことを怒っているだろうけれど、あたしは菜摘のこと、ちゃんと応援しているね。そして学園祭の日には菜摘と仲直りしたい。

はるかはひとり、そんな願いを胸に抱いていた。