★
「千賀先輩、よろしくお願いしますっ!」
無邪気に頬を赤らめて千賀に駆け寄ってくるはるか。軽い足取りでリズミカルなステップを踏んでいる。屈託のない笑顔に千賀は一瞬、後ろめたさを感じたが気を取り直して両手を広げ、歓迎の意思表示をする。
はるかの笑顔はさらに拍車がかかり、まるで主人を迎える忠実な犬のように嬉しさを溢れさせる。
「千賀先輩、今日は超重要なお知らせがあるんですよ~!」
前置きをしてから、はるかは自分の鞄を漁り、一枚のプリントを取り出した。それは音楽部が作成した、学園祭に向けてのポスター。
「じゃーん! あたし、学園祭で演奏するんです。なんかもうドキドキですよー!」
はるかは期待と緊張をあらわにして足をじたばたとさせる。まるでそのときを待ちわびているようだ。
「へー、そうなんだ。嬉しそうじゃん、あがり症のはるかはどこへ行ったのかな」
千賀ははじめて知ったような顔をしてはるかをからかう。
「えっ、だって千賀先輩に教えてもらった音楽をみんなにお披露目できるんですよ。最高のチャンスじゃないですか!」
「おいおい、いつの間にそんなにポジティブ思考になったんだよ。自分の演奏を聴いてもらいたいっていう感覚はプロ意識にも通じるんだ」
「へへぇ、めちゃんこアマチュアですけどね。あっ、でも学園祭の舞台はコンクールの予行演習を兼ねているんです。今年は学園祭がちょっと早めなので、地方大会の前にリハーサルとして演奏することになったんですよ」
そう言ってはるかはうふふと笑う。なにかを企んでいる顔だ。
「演奏するのはイベントの最後で、夕方なんです。それでですね、あたし思い切ったことを考えたんです。もう少し演奏が上手くなれば、あたしがみんなに、あたしの描くメロディを見せてあげられるんじゃないかなと思って。最近、上手く演奏できた音楽のイメージはみんなに伝わっていたみたいなんですもの」
はるかはそう言って自分のフルートをケースから取り出した。銀色のフルートが夕暮れの色に染められて艶やかな橙色の光沢を放つ。
「千賀先輩、私の音楽は世界を描けるっていってくださいましたよね。だからあたしが千賀先輩のメロディを皆に聞こえるようにできるかもしれないって思っているんです」
はるかは目をきらきらと輝かせて力説する。その言葉に千賀はにやりと笑みを浮かべる。
「それはすごいな。君だったらできるかもしれないよ」
「あっ、やっぱり千賀先輩もそう思います? そしたら、あたしがメロディを奏でた時、千賀先輩もステージに現れてもらえますか? 千賀先輩と高円寺先輩で、一緒にメロディを奏でることができるんじゃないかって思うんです」
千賀はこぶしで手のひらを叩き、「なるほど、それはいい考えだ、涼太の願いを叶えてやれるかもしれないな」と、すこぶる納得したような素振りをする。
はるかは「今日もご指導よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げてからフルートを構える。千賀はちらりとはるかの横顔に目を向けたが、その目にはなんの曇りもなく、千賀を信じ切っているように見えた。
それから毎日、千賀とはるかのハーモニーは屋上の主役となっていた。たったふたりの舞台は練習の場であったが、はるかは千賀への恋心を色濃くしていった。その甲斐あって、はるかの演奏は誰もが目を見張る上達ぶりだった。
はるかのフルートから解き放たれる音符は日ごとに透明度を増してゆき、繊細さや情緒を乗せて眩しい輝きを放つようになっていった。
「千賀先輩、よろしくお願いしますっ!」
無邪気に頬を赤らめて千賀に駆け寄ってくるはるか。軽い足取りでリズミカルなステップを踏んでいる。屈託のない笑顔に千賀は一瞬、後ろめたさを感じたが気を取り直して両手を広げ、歓迎の意思表示をする。
はるかの笑顔はさらに拍車がかかり、まるで主人を迎える忠実な犬のように嬉しさを溢れさせる。
「千賀先輩、今日は超重要なお知らせがあるんですよ~!」
前置きをしてから、はるかは自分の鞄を漁り、一枚のプリントを取り出した。それは音楽部が作成した、学園祭に向けてのポスター。
「じゃーん! あたし、学園祭で演奏するんです。なんかもうドキドキですよー!」
はるかは期待と緊張をあらわにして足をじたばたとさせる。まるでそのときを待ちわびているようだ。
「へー、そうなんだ。嬉しそうじゃん、あがり症のはるかはどこへ行ったのかな」
千賀ははじめて知ったような顔をしてはるかをからかう。
「えっ、だって千賀先輩に教えてもらった音楽をみんなにお披露目できるんですよ。最高のチャンスじゃないですか!」
「おいおい、いつの間にそんなにポジティブ思考になったんだよ。自分の演奏を聴いてもらいたいっていう感覚はプロ意識にも通じるんだ」
「へへぇ、めちゃんこアマチュアですけどね。あっ、でも学園祭の舞台はコンクールの予行演習を兼ねているんです。今年は学園祭がちょっと早めなので、地方大会の前にリハーサルとして演奏することになったんですよ」
そう言ってはるかはうふふと笑う。なにかを企んでいる顔だ。
「演奏するのはイベントの最後で、夕方なんです。それでですね、あたし思い切ったことを考えたんです。もう少し演奏が上手くなれば、あたしがみんなに、あたしの描くメロディを見せてあげられるんじゃないかなと思って。最近、上手く演奏できた音楽のイメージはみんなに伝わっていたみたいなんですもの」
はるかはそう言って自分のフルートをケースから取り出した。銀色のフルートが夕暮れの色に染められて艶やかな橙色の光沢を放つ。
「千賀先輩、私の音楽は世界を描けるっていってくださいましたよね。だからあたしが千賀先輩のメロディを皆に聞こえるようにできるかもしれないって思っているんです」
はるかは目をきらきらと輝かせて力説する。その言葉に千賀はにやりと笑みを浮かべる。
「それはすごいな。君だったらできるかもしれないよ」
「あっ、やっぱり千賀先輩もそう思います? そしたら、あたしがメロディを奏でた時、千賀先輩もステージに現れてもらえますか? 千賀先輩と高円寺先輩で、一緒にメロディを奏でることができるんじゃないかって思うんです」
千賀はこぶしで手のひらを叩き、「なるほど、それはいい考えだ、涼太の願いを叶えてやれるかもしれないな」と、すこぶる納得したような素振りをする。
はるかは「今日もご指導よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げてからフルートを構える。千賀はちらりとはるかの横顔に目を向けたが、その目にはなんの曇りもなく、千賀を信じ切っているように見えた。
それから毎日、千賀とはるかのハーモニーは屋上の主役となっていた。たったふたりの舞台は練習の場であったが、はるかは千賀への恋心を色濃くしていった。その甲斐あって、はるかの演奏は誰もが目を見張る上達ぶりだった。
はるかのフルートから解き放たれる音符は日ごとに透明度を増してゆき、繊細さや情緒を乗せて眩しい輝きを放つようになっていった。