学園祭を境にして涼太の目の色が変わった。

「俺はあの城西高等学校に入学したいんだ。父さん、許してくれるか」

涼太が父に頭を下げて頼み込むのは、生涯ではじめてのことだった。

涼太の父は、名門校への進学を拒否したことと、フルートの演奏を始めたことの両方に不快感をあらわにした。ワイングラスを置くと立ち上がり、低い声でこう言った。

「何を言っているんだ、お前は一流の高校に進学するべきだ。しっかりと自分の将来を見据えなさい」

願いを父が聞き入れることはなかったが、涼太も退くことはない。その決心は岩壁よりも強固だった。

「父さん、どこの高校に入ろうとも、俺は必ず医学部に進学するから心配しないでくれ。ただ、それまではやりたいことをやらせてもらいたいんだ。一生のうちのほんの三年間だと思って、許してほしい」

「学問の世界は厳しい。油断が命取りになると思え!」

そこで涼太を擁護したのは有紗だった。有紗は涼太の音楽に対する憧れに気づいていた。

「お父さん、お兄ちゃんはね、やりたいことが見つかったんだって。やらなきゃいけないこととやりたいことは違うみたいだよ」

有紗は涼太の顔を見上げ、涼太は黙ってうなずく。そしてさらに母も説得に加わってくれた。

「あなた、涼太を信じてあげましょうよ。せっかくの青春時代なんですから、好きなことをさせてあげたいわ」

ふたりの支持のおかげもあって、父は結局、首を縦に振った。ただし厳格な条件がつけられた。

「成績は常にトップクラスを維持すること。すべてのテストで学年一桁の順位であること。それができなければ、すぐさま音楽を諦めるんだな」

涼太は大きくうなずき、父の提示した条件を死守すると誓った。

千賀貴音さん、俺はあなたのいる高校に入学して、必ずあなたとフルートを奏でます。だから待っていてください。