放課後の音楽室はいつだってメロディで溢れかえっている。トランペットの音は賑やかなオレンジで、チューバは優しいグラスグリーンの音色、そしてサクソフォンの響きは鮮やかなトパーズ色。

音符たちはみな、音楽室の中をところ狭しと飛び回る。アンサンブル部に所属する二十四名の部員たちは皆、個性的で色彩豊かな音符を生みだしていた。

ある音符は綿毛のように舞い、ある音符は清流の水のように滑り、そしてある音符は散りばめた星のように頭上で瞬いている。

花宮(はなみや)はるかは膝の上にフルートを置いたまま、次から次へと生まれる音符を眺め続けていた。ミディアムボブの黒髪が音に揺れて捲れると、彼女の瞳は澄んだ湖面のように輝き、朝の陽射しのような笑顔があらわになった。小さな鼻とふっくらとした頬が、彼女の愛らしさを一層引き立てている。

音色は心を映しているって言ったら、皆、あたしのことをおかしいと思うかな?

ふと、気まぐれを起こした新緑の音符がはるかの目の前にこぼれ落ちてきた。そっと右手の人差し指を立てて音符に手を伸ばす。それがいけないことだとはわかっていても、つい好奇心が抑えられない。指先が軽やかに音符を捉えた。

チリン――。

グラスグリーンの光の粒が目の前で弾ける。はるかは光に込められた心の声を聴き、たまらず笑みをこぼす。

南野先輩、何かいいことあったのかな? メロディがうれしそうに小躍りしている。

オレンジとトパーズの音符たちも、立て続けにはるかの視界に流れ込んできた。指先を掲げそっと触れる。

シャリン――。

北川先輩はなんだか元気なさそう。最近はずっと気持ちが沈んでいるみたい。どうしたんだろう。

パリン――。

あはっ、菜摘はいつにもまして、高円寺先輩に首ったけみたい。恋する乙女のオーラが全開ね。

はるかの世界を取り巻くカラフルな音色たち。音符はみんな、はるかにとっては一瞬の、けれど大切な友達だ。

はるかは目を閉じ、音楽室の賑やかな音色に耳を澄ませる。そしてフルートを握り直し、ふたたび音楽の波に身を委ねた。その心は、音符のように自由に空を飛び回っていた。