運動会の準備が本格的に始まり、隼人は実行委員の6人と共にグラウンドに集まっていた。
　青空の下、皆が色とりどりの作業服を着ている中、隼人は緊張しながらも必死にチームをまとめようと奮闘していた。

　「さて、今日は競技の詳細を決めるために集まったんだ。まずは、各自がやりたいことを挙げてみてほしい」
　と隼人は声を張り上げた。しかし、周囲は期待したほどの反応を示さなかった。皆、緊張した様子で視線を下に向けている。

　「誰か、意見はある？」
　隼人は再度問いかけると、隣にいた純が
　「私はパン食い競争がやりたいです」
　と小さな声で言った。周囲は少しずつ口を開き始めたが、どれも消極的な意見ばかりだった。

　隼人は内心焦っていた。このままでは何も進まない。どうしたら彼らがもっと積極的になれるのか。隼人は何か方法を考えなければならなかった。

　「じゃあ、まずは僕がパン食い競争の詳細を考えてみるよ。それにみんなが提案してくれた競技も加えて、最終的に決めよう」
　と隼人は提案した。
　「その中で、何か気になることがあれば、どんどん言ってほしい」

　実行委員のメンバーは、お互いに目を合わせながら、少しずつ緊張が和らいでいくのを感じた。隼人はその変化を見逃さず、さらに声をかけ続けた。
　「みんなで楽しい運動会にしよう！ 君たちのアイデアが必要だよ」

　数時間後、彼らは競技内容を決め始めたが、まだまだ協力が足りないと感じていた。その時、周りの友人やクラスメイトたちが通りかかり、隼人に声をかけてきた。

　「隼人、頑張ってるね。そんなに熱心にやる理由って何？」
　クラスメイトの一人が尋ねる。隼人は心の中で
　「力弥に近づきたいから」
　と叫びたい気持ちを必死に抑え、
　「うん、みんなで楽しい運動会を作りたいと思って」と笑顔を返した。

　その後も他の友人たちが通りすがり、
　「なんでそんなに頑張るの？ 内申点狙いじゃないの？」
　と笑いながら言う。隼人はその度に内心で
　「そうじゃない」
　と叫びたい気持ちを抱えながらも、
　「ただ、自分たちのために頑張りたいだけなんだ」
　と言い訳をするのが精一杯だった。

　その日、運動会の準備を進める中で、隼人は何度も力弥の姿に目を奪われた。
　高身長でがっしりした体格、そしてその立ち振る舞いは、周囲を引きつける何かがあった。特に、競技について話し合う姿や、仲間と笑い合う姿を見るたびに、隼人はドキドキとした心持ちになった。

　「やっぱり力弥は素敵だな…」
　隼人は思わず自分の気持ちをつぶやいたが、その一方で
　「でも、こんな気持ちを他の人に知られたくない」と心の奥で葛藤していた。周囲には本当の動機を明かせず、ただ「頑張る理由」を繕うことしかできなかった。

　一方で、隼人の努力を見ていた純は、彼に対する気持ちをさらに強くしていた。彼女は心の中で「隼人、頑張ってるね」と思い、彼の横で微笑むことしかできなかった。隼人がリーダーとして頑張る姿を見ているうちに、純も少しずつ勇気を持てるようになっていった。

　その日が終わり、隼人は帰り道で自分に言い聞かせるように思った。
　「この運動会を成功させることで、力弥にもっと近づけるかもしれない。それが僕の目標なんだ」
　と。隼人の心には不安と期待が入り混じりながらも、彼は仲間たちと共に運動会の準備を進めることに誇りを感じていた。