隼人は運動会実行委員のリーダーとして、心の中で複雑な葛藤を抱えながらその役割を果たそうとしていた。実行委員会が始まってからの数週間、彼の胸には

 「逃げ出したい」

 という気持ちがぐるぐると渦巻いていた。周囲の期待に応えなければならないというプレッシャーが、次第に彼を追い詰めていく。

 「どうして自分が…?」
 隼人は会議室の隅でため息をついた。最初は単なる興味から始めた運動会実行委員だったが、今や彼は残ったメンバーのリーダーとなっていた。
 決して望んでいた役割ではない。それでも彼は、他のメンバーの視線が自分に向けられているのを感じるたび、逃げ出すことができずにいた。

 隼人は自分の不純な動機が露見しないようにしなければならなかった。
 彼が実行委員になった理由は、力弥に近づくためだけではなく、他のメンバーが一緒に頑張っているのを見ていると、次第にその気持ちが心の奥底から湧き上がってくるのだ。だが、彼は自分の想いを正直に打ち明けられない。
 もし本当の理由を知ったら、他のメンバーはどう思うだろうか。

 そんな葛藤の中でも、隼人は責任感を持ってリーダーとしての役割に取り組むことを決意した。
 何とかして運動会を成功させなければならない。彼がそう思うと、心の中にある逃げたい気持ちを抑えつけるように、毎日のように準備に取り組むことにした。

 その日、会議が始まると、隼人はメンバーに向かって明るい声を出した。
 「それじゃあ、まずは役割分担を決めようか!」
 と、彼は自分にできることを考えながら提案した。周囲の顔を見渡すと、まだ緊張した様子の純が小さく頷いているのが目に入った。

 「純、君は競技の進行役をやってもらえるかな?」
 隼人は彼に声をかけた。

 「えっ、僕ですか?」
 純は驚いた表情で目を丸くしながらも、少しずつ自信を持ち始めているように見えた。

 「もちろん!君ならきっとできると思うよ」
 と隼人は笑顔で励ます。自分が感じている逃げ出したい気持ちを振り払うかのように、彼は純に手を差し伸べた。

 純は一瞬戸惑ったものの、隼人の言葉に勇気をもらったのか、
 「わかりました、頑張ります!」
 と意気込んだ様子で答える。隼人はその反応にほっとし、少しずつ自分自身がリーダーとして成長している実感を覚えることができた。

 他のメンバーとの意見交換や計画作りの中で、隼人は徐々に自分が持っている力を信じられるようになっていった。もちろん、何度も「逃げたい」と思った瞬間はあった。しかし、純や他の委員たちの協力があったからこそ、隼人はその気持ちを抑えて進むことができた。

 「隼人がいるから、頑張れる」
 と純が時折漏らす言葉が、隼人の心に小さな灯をともしていた。彼はまだまだ自分の不安と向き合いながらも、仲間と共に運動会を成功させるために懸命に取り組む決意を固めていた。

 このまま逃げずに、リーダーとして成長し続けることができれば、きっと力弥にも、そして自分自身にも何か良いことが訪れるのではないか。そう思いながら、隼人は運動会に向けてさらに努力を重ねていくのだった。