実行委員に立候補して数日後、ついに最初の委員会が開かれることになった。
 隼人は少し緊張しながらも、力弥に近づけるかもしれないという期待を抱いて教室を出た。

 しかし、その期待は委員会の会場に足を踏み入れた瞬間、打ち砕かれる。

 「え、こんなに少ないのか…?」

 集まっていたのは、隼人を含めてわずかに十数人。クラスごとに数名はいると思っていた隼人にとって、この少人数は想像以上の少なさだった。
 内海から聞かされた「魔の実行委員」という噂が脳裏をよぎる。
 隼人は冷や汗が出そうになるのをこらえながら、委員長の先生の言葉を待つことにした。

 「さて、今年の運動会実行委員会のメンバーはこれで全員だな」

 淡々とした声で進行を務めるのは、担当の体育教師だったが、その顔はどこか疲れきっていた。
 すでに目の前の仕事に対して諦めているような表情だ。集まった委員たちも、それぞれ顔を見合わせ、どこか不安そうな様子をしている。どうやら、ここに来る前にすでに辞退した人間も多かったらしい。

 「毎年こんなもんだよ」
 と隣に座った二年生の委員が、ぼそりとつぶやいた。彼も疲れた様子で机に肘をつき、ため息をついていた。

 隼人は、そんな空気の中で、ますます不安を感じた。だが、ここで辞めるわけにはいかない。もし辞めたら、次どんな手で力弥に近づくのかまた考えなくてはいけない。

 先生は無気力に会議を進め、具体的な作業が説明され始めた。しかし、委員たちの表情はどんどん曇っていく。やるべきことが多すぎるのだ。競技の準備、グラウンドの配置、当日のスケジュール調整、リハーサルの手配…。すべてを実行委員が担当しなければならないと説明されるたびに、誰かがため息をついた。

 「こんなん、できるわけないだろ」

 後ろの方から、委員の一人がぼそっとつぶやく。それをきっかけに、会議の雰囲気がさらに重くなる。

 「やめようかな…」
 とつぶやく声が聞こえたのは、その翌週の委員会だった。

 最初こそ全員が集まっていたが、2回目、3回目の会議を迎えるころにはすでに何人かが欠席し始めていた。学校の廊下でばったり会った他の委員に
 「今日も委員会だよ」
 と声をかけても、
 「ちょっと用事があるから」
 などと理由をつけて来ない者も増えていった。

 「これ、思った以上にきついよな…」
 隣に座っていたあの話を聞いていたほかの同級生がため息をついた。

 「やっぱりあいつの兄貴の言ってた通りだわ。毎年、途中でほとんどがバックれるって。俺もそろそろ限界かも」

 隼人は苦笑いを浮かべた。
 自分も正直、ここまで大変だとは思わなかった。運動会の準備は生半可なものではない。競技の種類や細かいルールの決定から、参加者のリスト作成、必要な道具の手配まで、細かい作業が次々と積み重なる。その上、他の委員たちが次々と辞めていくことで、残ったメンバーにかかる負担はどんどん増えていった。

 委員長として指導をしてくれるはずの先生も、もはやまともに出席すらしてくれない。顔を見せたとしても、ただ「頑張ってくれ」とだけ言い残して、ほとんどの仕事を委員たちに丸投げしてしまう。

 そのうち、最初にいた十数人の委員は、半分以下にまで減っていた。
 残されたのは、隼人を含めてたったの六人。二年生が二人、三年生が一人、そして一年生の隼人を含む三人だった。

 「もう、俺たちでどうにかするしかないな」

 残された委員たちが机を囲んで話し合う中で、自然と視線が隼人に集まる。

 「隼人、お前結構しっかりしてるし、まとめ役やってくれないか?」

 最初に声をかけたのは、二年生の純だった。
 隼人が驚いて口を開きかけると、他のメンバーも次々に同意するように頷く。

 「確かに、隼人ならできそうだよな。最初から真面目に来てるしさ」

 「頼むよ、もうここまで来たら誰かがリーダーシップ取らないと…」

 隼人は心の中で叫びたくなった。自分はこんな責任を負うつもりで立候補したわけじゃない。ただ力弥に近づきたい、それだけの不純な動機だったはずなのに…。だが、他の委員たちの期待に満ちた目を前に、断ることはできなかった。

 「…わかったよ。やるしかないよな」

 そう言って、隼人は苦笑いを浮かべながらも腹をくくることにした。こうして、実質的なリーダーとして、隼人は残り少ないメンバーをまとめ、運動会の成功に向けて奔走することになったのだった。