三月  オレの卒業式

 今日は変なシャツは着ていない。若葉に何度も怒られて、オレは渋々兄ちゃんから貰ったシャツを処分した。卒業証書を貰うオレの髪は長いアッシュグレーではない。黒の短髪だ。
 ……若葉に貰ったガーネットのピアスだけはまだ外していないけれど。
 髪を黒くするのはおっちゃんから出された条件の一つだ。美容院に行った次の日はケンとカズが何度も揶揄ってきて面倒だった。
 記念写真を撮り終えてゾロゾロと校門から三年生が出て行く。オレも写真を撮り終えて門に近づくと、花束を持って待っててくれている若葉の姿。急いで若葉に駆け寄ると、若葉は笑顔で花束を渡してくれた。
 この数ヵ月で若葉は、眼鏡を止めて前髪も短く切るようになった。お互いの容姿は変わったけれど気持ちは変わらないままだ。

「千景、本当に明日引っ越すんですか? 僕は手伝いますけど大丈夫ですか?」
「ああ、明日にはあっちに荷物が届くから、若葉に手伝ってもらうことはねえよ。ここから旅立つときに一緒に居てくれるだけでいい」

 オレは笑って若葉を見る。若葉も俺に微笑み返してくれる。

「若葉……まだ先の事だけどさ。オレがちゃんと社会人やって、若葉が大学を卒業したら一緒に暮らさないか?」

 若葉大きな瞳が零れてしまわないか心配になるほど目を見開いている。若葉の瞳はポロポロととめどなく雫を落としてしまうから、持ってたハンカチで拭いてやった。

「……一緒にっ、暮らします!」

 涙声で、それでも一生懸命答えてくれた若葉の手を取り家に帰る。

「あー、若葉の親父さんとお袋さんに若葉をくださいってしなきゃ駄目かな?」
「ふふふ、それも見てみたいですね」

 いつもの小さな公園に一本だけある桜が少しだけ花を咲かせている。二人でそれを見て微笑んだ。この公園ともしばらくお別れだな。
 家に帰って大きなカバンを一つ持ってオレは家を出る。

「行こうか、若葉」

 外でオレを待っていてくれた若葉に声を掛け、ゆっくり二人で歩きだす。


 これから先の人生を……若葉と一緒に。