◇楠 若葉side◇

 千景との電話の次の日、妹の紅葉から電話かあった。

「もしもし! 若葉? 大変なの、ちぃちゃんがいなくなっちゃったの!」

 紅葉の話によると昨日から千景のスマホが通じなくなっていて、心配して家まで見に来た千景の友人たちに声を掛けられたそうだ。紅葉が千景の親に確認したところ昨日に昼頃から姿が見えなくなってらしい。
 まったく、相変わらずいい加減な親だ。千景の事をこれぽっちも気にはしていないのだろう。

「何度電話しても繋がらないし、ラインも既読にならないのよう!」

 紅葉は千景の事が心配でたまらないらしく涙声で喋っている。まさか昨日の僕との電話の後からか? 心臓がバクバクと音を立てているようだ。足が震えて上手く立っていられない。
 紅葉との電話を切って篤史に電話をかける。数コールで電話に出る篤史。

「もしもし? 若葉が電話とか、今日は雨が降り出すんじゃないか?」
「茶化さないでください。千景がいなくなったのは知ってますよね? 千景はどこですか、いますぐに白状しなさい」

 千景は何でも篤史に相談する。きっと今回の事も篤史は知っているはずです。

「ん? チカがどうした。いなくなったって、いつから?」

 篤史は驚いた様子で僕に聞き返す。篤史にも相談していないのですか? 篤史には簡単に紅葉から聞いたことを説明して電話を切った。篤史たちは手分けして地元を探すそうだ。他県にいる僕は千景がいなくなったというのに何も出来ないでいる。
 千景…どこにいますか?
 紅葉の言った通り電話は何度かけても繋がらないし、何度ラインを送っても既読にはならなかった。時間が経てばたつほど不安は大きく育っていく。考えは悪い方向に向かってしまい、ただ千景の無事を祈った。僕はじっと座ってもいられない程に落ち着かなくなってしまった。
 その日は夜になっても零時を過ぎても、千景から連絡が来ることは無かった。眠れなくて何度もスマホを確認して、千景に会いたくて涙が止まらなくなった。
 千景……お願いです、今度こそ素直になるから僕の所へ戻ってきて。
 一晩中起きていた僕は疲れて朝からベッドの上でうとうとしていた。完全に眠れないのは、千景の事が気になるから。溜息をつくと斜め上に置いていたスマホからメロディーが流れる。千景かと思い急いでみたら、妹の紅葉からだった。

「もしもし、どうしたんですか?」

 眠い目をこすりながら電話に出る。

「若葉! ちぃちゃんから連絡あったよ。若葉に伝言を預かってる!」

 その瞬間ベッドからがばっと起き上がり、紅葉の言葉を聞く。

「じゃあ千景は無事なんですね⁉」

 思わず大きな声を出してしまったが、紅葉は気にしてないようだ。

「うん、うん! さっき電話かかって来てね、若葉に伝えて欲しいって『一番近くの駅で待ってて、会いに行く』だってえ。良かったね、若葉!」

 今更ながらに、僕の気持ちが紅葉にバレていたことに気付く。でも今はそれどころじゃない。近くの駅だって? すぐに行かなくては。

「分かりました。僕は千景を探すのでもう行きます」

 急いで電話を切って財布をポケットに入れてアパートを飛び出す。今から千景が来る。僕に会いに来てくれる! 伝えたい言葉が沢山あった。たくさん謝って、たくさんの好きを渡してお互いを確かめ合いたかった。
 一番近くの駅は走って十分程度。早く…早く千景に会いたい。全力で途中の坂を駆け上がり息が切れても走ることを止めなかった。一秒でも早く彼の顔が見たかったから。
 駅に入り切符を買って改札を抜ける。辺りを見渡し千景の姿を探す。そんなに大きな駅ではない。すぐに見つかるはずだ。
どこにいるんですか? 千景!
 そう思った時に入ってきた電車の中に千景の姿を見つけた。近くまで走ってドアが開いて出てくる千景に思いきり叫んだ。

「―――千景!!」