「モーニングのメニューだよ」

 マスターの声がして、琉斗君に寄りかかってうたた寝していることに気が付いた。

「もうそんな時間か」

 琉斗君も寝ていたようで、目をこすりながら小さくあくびをした。

「ねえ、マスターはルナたちが来ることを知っていたの?」

 立ち去ろうとしたマスターを呼び止めるように声を掛けると、にっこりと微笑んで振り向いてくれた。

「どうだったかな? わたしはその時に思ったことを口にしているだけだからね」

「なに? マスターって超能力者?」

 寝ぼけ眼でマスターを見ながら、琉斗君はもう一度あくびをした。
 マスターは空いている隣のテーブル席の椅子を引き、軽く腰掛けるといつもの微笑みで私たちの顔を交互に見た。

「……少しだけ勘がいいのかな? マスターの勘ってやつだね。長年、店をやっているとね、ここに来るお客さんはみんな何か事情があってやって来る。それだけはよく分かるんだよ。そのうち、個々のお客さんがどんな事情で来ているのか、なんとなくではあるけれど感じるようになってくる」

 静かな語り口調が絵本の読み聞かせでも聞いているような、そんな不思議な感覚になる。

「例えば、キミたちが来た時には朝までここを必要としていることが分かった。さっきの実莉ちゃんの友達も、その後に来る誰かとの再会のためだと分かったよ」

「そんなことまで感じ取れるものなの? じゃあ、私は朝までここにいるために来たって初めから知っていたってことなのね」

 不思議な話だけれど、長年のマスターの勘だと言われたら、この不思議な老紳士なら有り得るのかな? なんて思えてしまう。

「そうだね。だけど、それよりも誰かと出会うために来たんだと察したよ。そして、琉斗君が現れた時に、その相手がこの子だってわかった」

 私たちは顔を見合わせた。まるでマスターに運命を感じたと言われたようで、不思議なような恥ずかしいような嬉しいような、そんな色んな感情が込み上げてきて、お互いの顔を見て笑ってしまった。

「キミたちだけじゃないよ。ここは人と人を引き合わせる場所なんだ。…………普段は会えないような特別な誰かとね」

 今度は真顔になってもう一度お互いに顔を見合わせると、二人同時にマスターを見た。

「マスター、それどういう意味?」

 鋭い目が光る琉斗君の問いかけに、マスターは表情を変えることなく相変らず静かに微笑んでいた。

「ここは何かそういう特別な店ってこと?」

「この店が、というと少し語弊があるかな? つまり、この店はそういう場所に建っているということだよ。恐らく磁場かなにかの関係でね」

 磁場……?
 物理でなにか習ったような気がする。
 えっと、磁石を使ってS極とN極がどうのとかいう話で……そうだ、磁気力が広がっている場所が磁場だったかな?

 頭の中でごちゃごちゃと考えていると、それを見透かしているようにマスターが微笑んで私を見ていた。

「難しい仕組みの話はわたしも知らないのだけどね。ただ、この辺りは磁界の歪みが生じているんだよ」

「磁界の歪み……?」

「ここに来るお客さんは、みんなこの店は自分の家の近所にあると思っている。キミたちも家の近所からここへ来ているのだろう?」

 思わず琉斗君の顔を見ると、驚いた顔で大きく頷いていた。私も視線をマスターに戻して「そうです」と答えた。それに、確かに月もここは家の近所だと言っていた。

「つまり、磁場の歪みが様々な空間から繋がってきている。元々ここもね、どことも繋がらない一つの世界だったんだよ」

 マスターの微笑みに陰りが見えた気がした。一瞬だけ寂しそうな表情を見せたと思ったら、すぐにまた穏やかに笑ってこちらを見て立ち上がった。

「年寄りのおしゃべりが過ぎましたな。モーニングの注文はいかがかな?」

「えっ? もう少し詳しく聞きてえんだけど」

「まあ、また必要があれば追い追い話しましょう」

 それ以上は何も話してくれないと悟り、私たちはモーニングを注文した。

「今日もそろそろ終わるな」

 少し寂しそうに琉斗君がつぶやいたから、ときめきのような切なさのような、そんな複雑な感情が私の胸に流れた。
 朝だから本来なら一日が始まる時間だけど、私たちにとったら一緒にいられる時間の終わりが近づいていた。

「明日もまた会える? 明後日にする?」

「そうだな……」

 二つ折りの携帯を開けたり閉じたりしながら、琉斗君が小さくため息をついた。

 別れる時間が寂しいなんて今だけだろうなんて思いたいけど、私たちはいつ会えなくなるか分からない。
 そんな不安の中にある不安定な関係なのかもしれない。


「そういえばね」

 彼のいじっているそのガラケーと自分の手の中にあるスマホを見比べながら思い出した。

「琉斗君の世界ってLINEがないよね? ていうか、スマホよりガラケー持っている人が多いんでしょ?」

「ん? ああ、やっぱりそこも実莉の世界と違ったのか。おまえスマホが普通みたいな顔していたから不思議だったんだ」

 やっぱりそうなんだ、と合点がいった。
 琉斗君のバイト先の〝coco〟で月にLINEを送ろうとしたら出来なかったから、あの時に世界の違いの確証を得たように思えた。

「私のところではガラケーからスマホに移っている。ガラケーは一時期なくなるって話だったけど、まだ少し進化して続くみたい」

「そうなのか。俺の世界はスマホも出たけど、機能があり過ぎて使い勝手が悪くてさ。手を出さなかったり、一度スマホを使ってもガラケーに戻った人がほとんどだな。スマホ持っているのは機械オタクとかよっぽど機能を使いこなせるヤツって感じか」

 千鶴さんもそんな言い方をしていたから、それはなんとなく感じていた。新しいものが出る時って、便利だと流行ることもあれば全く流行らないこともある。

 スマホの場合、私の世界は前者で琉斗君の世界では後者だったのだろう。同じスマホなのに不思議だな。そして、そういう部分に世界の隔たりを感じて寂しくなる。

「他にもきっと、探したら微妙に違うことっていっぱいあるんだろうね」

「ハハッ、だろうな。一緒に世界を行き来していたら、そういう間違い探しもできて楽しめそうだよな」

 本当に楽しそうに笑う琉斗君を見ながら、確かにそういう考え方もある、と思えた。感傷的になる必要も無かったのかな。

 急に心が温かくなって、思わず笑みがこぼれた。

「なんだよ? 急にニヤけて」

「ニヤけるって失礼!」

 思わず怒り口調になってしまったと気が付いて、慌てて口を押えた。

「あのね、嬉しかったの。私はそういうちょっとした違いが、二人の住む世界が違うんだって言われたようで寂しかったんだよね。けど、琉斗君はなんでも前向きに変えてくれるっていうか。ほら、さっきも二人で過ごす方法を具体的に考えてくれたし」

 素直に言葉を伝えられたと思って満足して顔を上げて隣を見ると、琉斗君は顔を真っ赤にして困ったような顔をしていた。

「おまえ、ストレートすぎる」

「えっ? なに?」

「照れるっつってんの!」

 頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でられた。

 ああ、照れたのね。髪を乱されるのは不愉快だけど、なんだかそれも嬉しく感じて、今日はニコニコが直りそうも無かった。

「ずっと一緒にいられたらいいなあ」

 心の中に留められずに、思わず言葉が漏れた。琉斗君の目がこちらを見て細く微笑んだ。

「いられるよ。ずっとな」

 ずっとなんて、普通は高校生カップルは考えないんだろうか。私たちは離れてしまう可能性を常に不安に思っているから、ただそういう想いが強くなるだけなんだろうか。

 その気持ちの根底にあるものはよく分からないけれど、私は本当にずっと一緒にいられたら幸せだろうって気持ちになっていた。だって、琉斗君の隣にいると、それだけ安心感が得られたから。

 私のことをきちんと見てくれて一緒に前を向いて歩ける人だって、心の奥からそんな声が聞こえてくるようだった。



「じゃあマスター、また来週」

「ごちそうさまでした」

 マスターの笑顔を見ると、私たちはいつも通りお店を出て手を繋ぎながらポプラ並木をゆっくりと歩いた。このレンガの道の向こうに、それぞれの世界が広がっている。今このレンガの道の向こうには、真っ白な霧がかかって何があるのかも見えない。

 この目の前の景色は確かに同じもののはずなのに、この先の帰り道は違う場所へ繋がっているなんて。

「なあ、実莉。あの霧の向こうに何か見えないか?」

 琉斗君がレンガの道の真っすぐ先の方を指差している。いつもはこの霧の手前で自分の世界へ戻っていくから、その先の道を気にしたことはなかった。

 だけど、確かにぼんやりと黒い影が見える。琉斗君に手を引かれて近づいてみると、道を塞ぐような幅の広い黒いアイアンの門が現れた。道に立ち並ぶ外灯とお揃いのようなデザインのお洒落な門だ。

「この門の向こうって、行けるのかな?」

 繋がれた手に少し力が入ったのを感じて、一緒に見に行こう、と言われた気がした。

「……行ってみる?」

「おう、行ってみようぜ」

 白い歯を見せて笑った琉斗君の顔を見て、ほんの少し胸にあった不安が吹き飛んだ。

「うん、行こう!」

 その門は琉斗君の身長より少しだけ高く、押しても重くてビクともしなかった。門の向こうは相変わらず真っ白な霧で、数十センチ向こう側もなにも見えない。

「鍵でも掛かっているのかな?」

 門を見上げてみたけれど、錠のようなものは見えない。ただ頑丈な門なのだろうか?

「これくらいなら、よじ登れるかもな」

 私から離し手を門にかけた時、「やめなさい!」という厳しいマスターの声が飛んで来た。驚いて振り返ると、怒ったような驚いたような表情でマスターがこちらへ駆けてきた。

「その先は危険だから行ってはいけない!」

「えっ? この先には何があるの?」

「…………実莉ちゃん、霧の向こうをよく見てごらん」

 霧の向こう……?

 真っ白な霧が視界を覆っていて、ぼんやりとした暗がりが見えるだけで何も確認できなかった。

「何も見えないけど……」

「あっ、実莉! そこ見てみろ!」

 琉斗君が足元の前方を指差している。門の向こうの地面に視線を這わせていくと、その先には明らかに地面がとぎれていて、まるで崖の上のような状態がずっと門と並行して続いているのが見えた。

「なに、これ……」

 私たちは顔を上げてマスターを振り返った。

「この先には、なにもないんだよ」

 マスターが寂しそうな笑顔を見せた。

 何もないって……?

 私は混乱しそうになって、両脇に連なっているポプラ並木の方を見た。

「そっちはもっと危険だよ。ここは門が守っているけど、ポプラの向こうには何もない」

 琉斗君がこちらを見たから、私もうなずいて手を引かれるままポプラの木の方へ歩いた。高い木の向こうには、二メートルほど地面があったけれど、やはりその先は途切れて真っ白な霧に覆われていた。

「マスター、この下には何があるの?」

「だからね、琉斗君。何もないんだよ」

「何もないって?」

「しいて言えば、宇宙だろうね」

 その静かな言葉を聞いて、私の背中に冷たいものが走った。

「だから、絶対に近づいてはいけないよ。そのまま自分たちの来た道へおかえり」

 いつもの穏やかな表情に戻ると、マスターはくるりと背中を向けて幻想珈琲館の方へ歩き出した。

「ちょっと、待って」

 小走りで琉斗君がマスターの前方へ回って引き留めた。

「どういうことだよ? ここは何なの? 元々は一つの世界だったんじゃねえの?」

「そうだよ。だけど、今はここしかない」

 幻想珈琲館の方を振り返ると、その向こうは行き止まりで大きなグレーの塀がそびえ立っている。だけど、それも今まで気が付かなかったけれど、この離れた位置から上の方まできちんと確認すると、高い高い塀の先端はすこし斜めに欠けている。

 きっとあの塀の向こうも何も無いのだろう。

 私たちが立っているこの道幅は四メートルあるかないか、両脇に背の高いポプラの木が一列に植えられていて、オレンジ色のレンガが敷き詰められている道。ポプラの手前にはところどころに黒いアイアンの街灯が立っている。

 そして、奥行き十メートルほどの先にはグレーの塀の行き止まりと幻想珈琲館、反対側は頑丈なアイアンの門で塞がれている。

 それが、たったこれだけの場所が、この世界の全てだということ………?

 私はとてつもなく狭い世界に押しこめられたような、そんな閉塞感に少しだけ恐怖を覚えた。

「良かったら、もう少しフルーツでも食べていくかい?」

 マスターがいつもの微笑みで先導するように幻想珈琲館の方へ歩いて行き、私たちは黙って後ろをついていった。


 すでに誰も居なくなっているお店に入ると、マスターは流れていたクラシックの音楽を止めて、私たちをカウンター席に案内した。

 カウンターの向こうで大きな冷蔵庫からカットされたメロンやパイナップルを出しながら、「何から話そうかね……」と呟いて大きな扉を閉めるとため息をついた。しばらくの間、私たちはマスターがガラスの器にフルーツを用意する様子をただ黙って見つめるしかなかった。


「むかし話になるんだけどね、さっきも言った通り、ここも他の世界と繋がっていない一つの世界だった」

 数種類のカットフルーツを乗せたガラスの器をひとつ私たちの間に置くと、マスターはおもむろに話し出した。

「キミたちの世界と似たようなところだったよ。ここに交わる世界はいわゆるパラレルワールドとは違うようだけど、それに近い世界じゃないかと思う。だけどパラレルワールドと違うのは、共通する人物がいるわけではなく、時間のねじれでできているわけでもなく、ただずっと同じ時間を平行に存在している似ている世界なんじゃないかと思っている」

 そういう世界の存在ということなら、全てが納得が出来るような気がした。パラレルワールドならどこかの時点まで同じ世界だったわけで、もう一人の琉斗君が私の世界に存在する可能性がある。だけど、私は琉斗君の世界とは全く違う世界にいると感じていた。

 言語や人種や街の雰囲気や教科書の種類まで同じだったから分かりにくいけど、かなり似ている全然違う世界という印象だった。

「つまり、ここは地球であり日本であることは確かなの?」

 琉斗君の言葉で、私の世界も琉斗君の世界も同じ星で同じ国にいるんだと、そこはハッキリできた。やっぱりパラレルワールドに近いけど、全然違う世界が並行してある、というのがピンとくる。

「ああ、そうだよ。キミたちの世界と同じだ。どうしてそういう世界がいくつも存在しているのか、それはわたしにも分からないよ。だけど、少なくともここも昔はそういう世界の一つだったということは確かなんだ」

 カウンターの向こうでマスターも椅子に腰かけると、マグカップに入ったコーヒーをすすった。

「だけど、世界戦争が起こった。ある国が核兵器よりもずっと破壊力のある大量破壊兵器を造り出したんだ。それを脅威に思った多くの国がその国を攻撃して、結局追い詰められてその大量破壊兵器を使った」

「……それで、残ったのがここだけっていうこと?」

 フルーツピックでいちごを刺しながら、琉斗君が口を挟んだ。

「どうだろうね。他にもどこかに残っているのかもしれない。ただ、ここも兵器で吹っ飛んだ時には、まだ一つの街くらいはあったようだよ」

 一つの街が残ったのに、ここまで何も無くなってしまったのはどうしてなんだろう……?

 琉斗君も恐らく同じ疑問を持ったのだろう。フルーツを食べる手を止めてマスターを見ていた。

「ここの裏に大きな壁があったのは見ただろう?」

 私はさっきの霧の中の高い塀を思い出して無言でうなずいた。

「あれの裏には他の星があるんだよ」

「どういうこと?」
「他の星?」

 私たちがほぼ同時に言葉を発したから、マスターは目を細めて微笑んだ。

「重力の関係なのか磁場の関係なのかは分からないがね。あの星にピッタリくっつくような形で、この場所は安定しているんだ。もう四十年くらい経つのだけどね」

 そして、ゆっくりとコーヒーを一口飲むと小さく息を吐いてまた微笑み、淡々とした口調で続けた。

「兵器で吹っ飛ばされたあと百人ほど乗せたまま、この場所は宇宙を彷徨っていた。住人にとっては頻繁に地震が起こり、乗り物酔いのような状態が続くこともあった。それに、大きな揺れが起こると地面が割れて、飛ばされていくこともあった」

 そんな状況を想像すると、ほんの少しの安心感も得られないような気がしてゾッとした。

「三十人ほど残った頃には、この店とその周りの十数軒の家が残るのみだった。その頃には食料もこの店にすべて運んで共有するようになっていた」

「だけど、あるとき今までにないくらいの大きな揺れが起こり、何かに吸い寄せられるように地面が急激に動き、物凄い衝撃の振動が起こった」

 相変らず穏やかな表情で淡々と語るマスターの心情がよく分からなかった。なんとなく世間話をしているような、物語の話をしているように感じて違和感があった。

「そして、この壁の向こうの星にくっつく形で落ち着いた。幸か不幸か人の住めないような無人の星でね。恐ろしい異星人に攻撃されることもなければ、助けを得られることも無かった。そして、その時にはもう今残っているこの場所しか無くなっていたんだ」

 少しの沈黙が訪れた。
 そして、琉斗君が口を開いた。

「…………この場所には何人残ったの?」

「一人だよ。たった一人残された人がいた」

 再び沈黙になったけれど、マスターは相変わらず穏やかな表情をしている。

「それは……マスターなの?」

 私の問いにマスターが目を見開いて驚くと、フッと息を吐いて首を横に振った。

「いや、違うよ。わたしではない。もしかして、キミたちはわたしがここに暮らしていると思っているのかな? 残念ながら、わたしはこの何もない世界で生息できる魔法使いではないよ」

 不思議な雰囲気をかもし出しているマスターだから、謎が多くててっきりそんな気がしていたけど……。違うの?

 私は何も言えずに、ただマスターの顔を見た。

「ハハッ。私もキミたちと同じだよ。毎週土曜日にだけ、他の世界からここへ通っているのさ。ここで営業できる材料だけは持って来てね。ただ、ここの所有者にはきちんと許可を取っているよ」

 そう言ったマスターの瞳は少し寂しそうに遠くを見ていた。恐らくその人がたった一人の生き残りなのだろう。

「わたしが偶然ここに辿り着いた時、彼女は絶望の淵にいたよ」

 遠くを見つめたまま、マスターが呟くように言った。

「たった一人残されたのは、(ひとみ)さんというまだ二十三歳の若い女性だった。たまたま彼女はこのお店にいて、他の人たちはそれぞれの家にいた。そして、ここにいた彼女だけが生き残ったらしい。私がここに現れるまで、彼女は三日間ここに一人でいたんだ」

 たった三日と言えばそうかもしれないけれど、想像すると絶望しかない恐怖の三日間だろう。ふいに琉斗君に手を握られて、自分が震えていたことに気が付いた。

「大丈夫だよ、マスターが現れたんだから。ねえ、マスター。そうだろ?」

「そうだね。彼女は私を見たときは『夢じゃないの?』と泣いて喜んでいたよ」