人生にはいくつか分岐点というものがある。
琉斗君との時間は、人生という長いスパンで考えると、そんなことの一つだったのかもしれない。
あの時どうしたら良かったんだろう? とか、こうしたら良かったのかな? とか、考えだしたら無限ループのように思考の渦にハマってしまう。
だけど、私の左手にあるこの腕時計は確実に彼の左腕に繋がっていて、時空を超えて同じ時を刻んでいるのだ。
だから、私たちは会えなくても、声が届かなくても、この腕時計を通して一緒にいられるのかもしれない。
実際に会って語り合ったり、手をつないだり抱きしめたり、そんなことが出来なくても、私たちは心で繋がっている。
そう思えるのは、やっぱり私たちが実際に会って色んな話をして、心が近くなって、魅かれ合って、触れ合って、そういう濃い時間があったからなんだって思うの。
本音を言うと、最後に彼に言った約束の言葉は強がりでしかない。
琉斗君と一緒に、小さい頃の私たちが羨むほどの家庭を作るのは私でありたいと強く願う。
何年後でも何十年後でもなんて、考えるだけで苦しくて胸がつぶれそうだって思うこともある。
それでも、約束はちゃんと守ろうと思う。
琉斗君のいないこの世界で、私はしっかりと生きていく。
長い人生の中ではいくつかのブレイクタイムというものもある。
ほんの少しの休憩タイム。
だけど、その時間が掛け替えのないものになって、それ以降の自分の人生の要になったり癒しになったりすることもある。
琉斗君の出会いはそういう意味もあったような気がする。
彼のいない世界は色褪せると思ったけれど、そうじゃなかった。
彼と話したことが、彼の言葉が、彼の存在が、この世界のすべてをキラキラと輝かせてくれて、実際には会えなくても私の心の中には常に琉斗君がいるんだって感じさせられるようになった。
私はきっと何年でも何十年でも、琉斗君に会える幻想珈琲館へたどり着く道を探し続ける。
だから、また彼と笑顔で会うために、真っすぐ生きて幸せになろう。
【了】