長澤さんの気持ち悪い秘密を知ったとき、頭の中でビビッという音がした。

 これならいける!

 私はすぐに計画を実行した。

 まずは噂好きの美川(みかわ)さんに、

「これはここだけの秘密なんだけど」

 と前置きした上で長澤さんの秘密を教えてあげれば、あとは勝手に尾ひれをつけて広めてくれる。そうなれば第一段階は終了だ。

 ばらすことに対して少しくらい罪悪感は覚えるよ。でも私は美川さんに「ここだけの秘密」と言っているから、噂が広まったとしても悪いのは約束を破った美川さんだ。私に一切の罪はない。そもそも私が二股を追求したとき――私の勘違いだったんだけど――に、長澤さんから結構な暴言を吐かれた。私はとても傷ついたから、これくらい許されるはずだ。最終的には長澤さんを救ってあげるし、長澤さんも本当の自分を隠さずに生きられるようになるんだから文句もないだろう。むしろ感謝されるかも?

 キモい性癖を持っていると伝えてきたとき、長澤さんは怯えていた。私が長澤さんのキモい性癖を認めてあげたら安堵していた。ここから導き出される結論は、長澤さんは自分の性癖をみんなに認めてほしいってこと。私はその願いを叶えてあげようとしている。私はなんて優しいんだろう。頭のよさも兼ね備えているから、すぐに最適解を導き出せる。

 これでようやく神谷くんに勝てる。

 長澤さんの話を聞くことしかできない神谷くんとは違うんだ。

 神谷くんが武元とかいう普通以下の女とつき合いはじめたとき、なんでって思った。尊敬し合える子がタイプじゃなかったの? 私があなたのためにどれだけ頑張ってきたか。普通に考えたら選ばれるのは私なのに、なんであんな女が選ばれるの?

 そう思うと、それまで抱いてきた神谷くんへの気持ちが溶けていった。これを蛙化っていうのかな? でも二週間で別れてざまぁというか当然というか。逆にみじめすぎて、むしろつき合わない方がよかったよね。武元さん程度の女が二週間もつき合えたことを奇跡と呼んで褒め称えた方がいいのか。

 とにかく、神谷くんが私を選んでくれなかったとき、ものすごく腹が立った。私を選ばない神谷くんに失望した。神谷くんにぎゃふんと言わせたくなった。選ばなかったことを後悔させてやるって決めた。

 長澤さんをいじめから華麗に救い出して、長澤さんのキモい性癖をみんなに認めさせる。

 神谷くんができずにいることを、この私がさらりとやってのける。

 ……うん、完璧だ。

 これで長澤さんは自分に正直に生きられるようになり、私もみんなから一目置かれるようになり、神谷くんだって私がいかにすごい人間かを理解する。尊敬し合える存在だと思い直してくれる。全員が幸せになる。素晴らしい。私は本当に天才だ。

 なんだ、一人でも問題なくこなせるじゃん。

 いや、私がすごすぎるだけか。