7.
 僕は扉を開けた。
「美月」
 僕は彼女に呼びかけた。
 彼女は演奏に入り込んでいるときみたいにベッドのうえで目を閉じていた
「美月?」
 僕はもう一度呼びかけた。返事がなかったからだ。
 またいつものように疲れて眠っているのだろうか。
「美月」
 僕はなんども呼び続けた。
 響かない。
 僕の声も、何の音も。
 響かない。
 美月。僕は呼んだ、何度も。
 何度も、何度も、何度も。
 ずーっと呼び続けた。
 やがて僕の後ろから大人たちが入ってきた。
 大人たちは僕を追い越して美月に駆け寄る。
 俊明さんも入ってきた。
 みんな口々に何か叫んでいる。
 でも、なにも聴こえなかった。
 ドラマみたいに心臓が止まるときに心電図がピーって鳴り続ける音なんて。
 そんなもの少しも聴こえやしなかった。