それからのおれ達は今まで以上に距離が縮まった感じがする。
瑛くんはコンクールが終わって次のコンクールまでは少し時間があるからか、前よりかは帰りが早くなり一緒に寮の食堂で夕飯を取る時間も増えた。後、朝一緒にランニングをするようになった。
今も一緒にランニングをしている最中だ。
「まさか、瑛くんが一緒にランニングしたいって言うとは思わなかったよ~」
「運動しないとやばいかもなって急に思って……」
「まあ、ピアノも体力ないと出来ないもんなぁ。運動するのは良いことだと思う! おれは、瑛くんと走れて朝の時間がより好きになったよ!」
「ありがとう。俺も一人じゃ絶対やらないから、はるとが運動するタイプで助かった」
「朝のランニングだけだどな~朝、走るの気持ち良いだろ?」
「うん」
そんな会話をしながらおれ達は湖の畔を走っていた。
梅雨が終わり、じめじめした空気は減って来たけれど、今度は暑い夏が近づいてきている感じが空気で伝わってくる。
「そう言えばさ、瑛くんは夏休みってどうするの?」
後数週間後には、夏休みがせまっていた。
高校生になって初めての夏休み。
おれも、夏休み明けにはコンクールに出ることになっているからレッスンもしないといけないけれど、遊びもしたい。
音楽科といえど、もちろん夏休みの宿題も普通にあるので遊んでばかりもいられないのは分かっているけれど……。
「1週間くらい親がいるウィーンに行くことになってる」
「ウィーン!??? ウィーンってあのウィーン? 音楽の都って言われてる……」
「そう。うちの親、今ウィーンで活動してるんだ」
「え、瑛くんのお母さんとお父さんって何してる人なの?」
「お母さんは、ヴァイオリン奏者で、お父さんはピアニスト」
「へぇ~~~すげぇな~~~」
分かってはいたことだけれど、改めて聞かされると自分家との差に驚く。
「はるとの所は?」
「うちは、音楽とは全然関係ないんだよ。音楽やってるのおれだけ。母ちゃんは専業主婦だし、父ちゃんはサラリーマン。妹がいるけど、妹はバスケだし」
「そうなのか。そっからどうしてはるとのピアノが出て来たんだ?」
「おれもよく覚えてないけど、ピアノやりたいって言ったら習わせてくれたんだよな~」
「良い家族なんだな」
「おう! でもそっか、瑛くん夏休みいないのか……」
それは寂しい。
入寮してからずっと一緒にいるから1週間も離れるなんて耐えきれるだろうか。
おれも実家に帰れば良いのかもしれないけど、何となく帰りたいという気持ちにはならなくて。
瑛くんと一緒にいられたらなぁという気持ちばかり溢れてくる。
「……はるとさえよければ、一緒に来るか?」
「え!? ウィーンに!?」
「これ言ったら嫌味かもだけど、俺ん家お金あるからはると一人分くらい旅費出せるし。たぶん、親も喜んでくれると思う。俺、今まで友達とかいなかったから」
「嬉しい!! お言葉に甘えて行かせてください!!」
思ってもいなかった展開に、おれは嬉しさのあまり踊り出しそうになってしまった。
初めての海外を友達と一緒に行けるなんて。何となく初めては、学校の研修になるのかなと思っていた。
パスポートはその為に入学する前に取っておくことが義務付けられていたので取ってある。
「まさか、こんな早くパスポートの出番がくるとはなっ!」
「海外に必要なものって後なんだ~?」
「そうだ、俺達まだ未成年だから渡航の同意書が必要なんだ。親に書いてもらえそう?」
「うん、大丈夫! 次の週末さっそく用意して親に書いてもらって来るよ!」
「後は、海外保険に入っておこう。そうしたら、何かあった時も安心だから」
「分かった!」
次の週末に、色々と海外に必要な書類やら手続きを済ませて無事に全てを終わらせて後は当日を待つだけ、となった。
親は、ルームメイトの友達がウィーンにタダで連れて行ってくれるんだという経緯を話したら、かなり驚いていたけれど良い経験になるだろうし、気を付けて行ってらっしゃいと言ってくれた。
神奈川といえばの土産をたくさん持たされて帰ったら瑛くんはびっくりしていた。
——そうして、時は流れて夏休みがやってきた
高校生活最初の夏休み。
おれは、この日の為に新しく購入したTシャツとズボンを着て新しい旅行鞄を手に持ち忘れ物がないか最終確認をした。
瑛くんは涼しい顔で既に部屋の前で待っていた。
「よし、忘れ物無しっ! 冷房も電気も消した! お待たせ、瑛くん~」
「はるとって以外に真面目だな」
「以外にって何だよ~」
「忘れ物チェックなんてしなさそうな雰囲気してるから。起きたらすぐに行くぞー! ってなりそうな」
「実家帰るとかその辺遊びに行くならそうかもだけど、ウィーンだよ!? 海外だよ!??」
念入りにチェックしておかないと、仮に何か間違いがあったら恐ろしすぎるから。
「まあ、何かあっても俺が傍にいるから安心して。俺、ドイツ語も英語も話せるからさ」
「すげ~~~おれ、ドイツ語挨拶周りと自己紹介覚えるので精一杯だったんだけど……」
「それが出来てれば大丈夫だよ。一人になるようなことはないから」
「だよね! 瑛くんがいてくれたら心強いよ~」
そんな会話をしながらおれ達は寮の入り口にまで来て、受付のおばちゃんに挨拶をした。
「2人でウィーン行くんだってねぇ。良いね~」
「お土産買ってきますね!」
「ありがとね~気を付けて行ってらっしゃい」
「行って来ます」
「行って来ます!!」
バイバイと手を振りながら、寮を出た。
寮から最寄り駅へ向かい、そこから空港のある駅まで向かう道中ずっとおれ達はおしゃべりをしていた。
瑛くんとルームメイトになったばかりの頃は、まさかこんなにも瑛くんと何でも話せる仲になるとは思わなかった。
瑛くんと話している時間はとても楽しくて、特別なことは何もしていないけれど言葉を交わしているその瞬間がとても愛おしくて、尊い時間だなぁと感じていた。
しゃべっているとあっという間に空港に着き、瑛くんが全部手続きをしてくれた。
おれは荷物番。カウンターで手続きをしている瑛くんの姿は、とてもかっこいい。
遠くから見ていると同じ年とは思えないくらい、落ち着いている。
さすがだなぁと惚れ惚れしていると、瑛くんがこちらに向かって歩いて来た。
「お待たせ」
「ありがとう、瑛くん!」
「どういたしまして。じゃあ、登場口の付近まで行こうか。近くにいた方が安心だし」
「うん!」
空港に来るのも久々だったから、向かう道中辺りを見渡しながら歩いてしまっていた。
「はるとって黙ってても声聞こえてきそうな表情してるよな」
「えぇ~そうかな~?」
「うん。今も、すごく楽しそうな表情してた」
「楽しいからね! 空港ってだけでもうワクワクするっ!」
「勇気出して、誘って良かった」
ちょっと照れながら瑛くんは言った。
「瑛くんが勇気出してくれておれも嬉しい! 瑛くんの勇気がなければおれは今ここにいないかもしれないんだもんねっ」
「そう、だな。俺、本当に今まで友達と遊ぶとかしてこなかったから、全部はるとが初めて」
「何それ~~めっちゃ嬉しいんだけどっ」
友達が感じる、色々な〝はじめて〟をおれが与えているというのは、本当に嬉しい。
他でもない瑛くんだからこそ、より一層嬉しくて溜まらない。
「おれも、瑛くんのおかげで友達と初めて海外旅行することになってるよ! 色々やってきたつもりでいたけど、おれもまだまだはじめてがあるのに気が付いた。明日からはもっと、〝はじめて〟で溢れているんだろうなー」
「そっか。はるともはじめてがあるんだ」
「当たりまえだよ! あ~~~早くウィーンに着かないかなー!!」
これから長い空の旅が始まるのは分かっているし、それはそれで楽しみではあった。
飛行機の中で、瑛くんとどうやって過ごそうか。
ドキドキと心臓が高鳴り続けていた。
瑛くんはコンクールが終わって次のコンクールまでは少し時間があるからか、前よりかは帰りが早くなり一緒に寮の食堂で夕飯を取る時間も増えた。後、朝一緒にランニングをするようになった。
今も一緒にランニングをしている最中だ。
「まさか、瑛くんが一緒にランニングしたいって言うとは思わなかったよ~」
「運動しないとやばいかもなって急に思って……」
「まあ、ピアノも体力ないと出来ないもんなぁ。運動するのは良いことだと思う! おれは、瑛くんと走れて朝の時間がより好きになったよ!」
「ありがとう。俺も一人じゃ絶対やらないから、はるとが運動するタイプで助かった」
「朝のランニングだけだどな~朝、走るの気持ち良いだろ?」
「うん」
そんな会話をしながらおれ達は湖の畔を走っていた。
梅雨が終わり、じめじめした空気は減って来たけれど、今度は暑い夏が近づいてきている感じが空気で伝わってくる。
「そう言えばさ、瑛くんは夏休みってどうするの?」
後数週間後には、夏休みがせまっていた。
高校生になって初めての夏休み。
おれも、夏休み明けにはコンクールに出ることになっているからレッスンもしないといけないけれど、遊びもしたい。
音楽科といえど、もちろん夏休みの宿題も普通にあるので遊んでばかりもいられないのは分かっているけれど……。
「1週間くらい親がいるウィーンに行くことになってる」
「ウィーン!??? ウィーンってあのウィーン? 音楽の都って言われてる……」
「そう。うちの親、今ウィーンで活動してるんだ」
「え、瑛くんのお母さんとお父さんって何してる人なの?」
「お母さんは、ヴァイオリン奏者で、お父さんはピアニスト」
「へぇ~~~すげぇな~~~」
分かってはいたことだけれど、改めて聞かされると自分家との差に驚く。
「はるとの所は?」
「うちは、音楽とは全然関係ないんだよ。音楽やってるのおれだけ。母ちゃんは専業主婦だし、父ちゃんはサラリーマン。妹がいるけど、妹はバスケだし」
「そうなのか。そっからどうしてはるとのピアノが出て来たんだ?」
「おれもよく覚えてないけど、ピアノやりたいって言ったら習わせてくれたんだよな~」
「良い家族なんだな」
「おう! でもそっか、瑛くん夏休みいないのか……」
それは寂しい。
入寮してからずっと一緒にいるから1週間も離れるなんて耐えきれるだろうか。
おれも実家に帰れば良いのかもしれないけど、何となく帰りたいという気持ちにはならなくて。
瑛くんと一緒にいられたらなぁという気持ちばかり溢れてくる。
「……はるとさえよければ、一緒に来るか?」
「え!? ウィーンに!?」
「これ言ったら嫌味かもだけど、俺ん家お金あるからはると一人分くらい旅費出せるし。たぶん、親も喜んでくれると思う。俺、今まで友達とかいなかったから」
「嬉しい!! お言葉に甘えて行かせてください!!」
思ってもいなかった展開に、おれは嬉しさのあまり踊り出しそうになってしまった。
初めての海外を友達と一緒に行けるなんて。何となく初めては、学校の研修になるのかなと思っていた。
パスポートはその為に入学する前に取っておくことが義務付けられていたので取ってある。
「まさか、こんな早くパスポートの出番がくるとはなっ!」
「海外に必要なものって後なんだ~?」
「そうだ、俺達まだ未成年だから渡航の同意書が必要なんだ。親に書いてもらえそう?」
「うん、大丈夫! 次の週末さっそく用意して親に書いてもらって来るよ!」
「後は、海外保険に入っておこう。そうしたら、何かあった時も安心だから」
「分かった!」
次の週末に、色々と海外に必要な書類やら手続きを済ませて無事に全てを終わらせて後は当日を待つだけ、となった。
親は、ルームメイトの友達がウィーンにタダで連れて行ってくれるんだという経緯を話したら、かなり驚いていたけれど良い経験になるだろうし、気を付けて行ってらっしゃいと言ってくれた。
神奈川といえばの土産をたくさん持たされて帰ったら瑛くんはびっくりしていた。
——そうして、時は流れて夏休みがやってきた
高校生活最初の夏休み。
おれは、この日の為に新しく購入したTシャツとズボンを着て新しい旅行鞄を手に持ち忘れ物がないか最終確認をした。
瑛くんは涼しい顔で既に部屋の前で待っていた。
「よし、忘れ物無しっ! 冷房も電気も消した! お待たせ、瑛くん~」
「はるとって以外に真面目だな」
「以外にって何だよ~」
「忘れ物チェックなんてしなさそうな雰囲気してるから。起きたらすぐに行くぞー! ってなりそうな」
「実家帰るとかその辺遊びに行くならそうかもだけど、ウィーンだよ!? 海外だよ!??」
念入りにチェックしておかないと、仮に何か間違いがあったら恐ろしすぎるから。
「まあ、何かあっても俺が傍にいるから安心して。俺、ドイツ語も英語も話せるからさ」
「すげ~~~おれ、ドイツ語挨拶周りと自己紹介覚えるので精一杯だったんだけど……」
「それが出来てれば大丈夫だよ。一人になるようなことはないから」
「だよね! 瑛くんがいてくれたら心強いよ~」
そんな会話をしながらおれ達は寮の入り口にまで来て、受付のおばちゃんに挨拶をした。
「2人でウィーン行くんだってねぇ。良いね~」
「お土産買ってきますね!」
「ありがとね~気を付けて行ってらっしゃい」
「行って来ます」
「行って来ます!!」
バイバイと手を振りながら、寮を出た。
寮から最寄り駅へ向かい、そこから空港のある駅まで向かう道中ずっとおれ達はおしゃべりをしていた。
瑛くんとルームメイトになったばかりの頃は、まさかこんなにも瑛くんと何でも話せる仲になるとは思わなかった。
瑛くんと話している時間はとても楽しくて、特別なことは何もしていないけれど言葉を交わしているその瞬間がとても愛おしくて、尊い時間だなぁと感じていた。
しゃべっているとあっという間に空港に着き、瑛くんが全部手続きをしてくれた。
おれは荷物番。カウンターで手続きをしている瑛くんの姿は、とてもかっこいい。
遠くから見ていると同じ年とは思えないくらい、落ち着いている。
さすがだなぁと惚れ惚れしていると、瑛くんがこちらに向かって歩いて来た。
「お待たせ」
「ありがとう、瑛くん!」
「どういたしまして。じゃあ、登場口の付近まで行こうか。近くにいた方が安心だし」
「うん!」
空港に来るのも久々だったから、向かう道中辺りを見渡しながら歩いてしまっていた。
「はるとって黙ってても声聞こえてきそうな表情してるよな」
「えぇ~そうかな~?」
「うん。今も、すごく楽しそうな表情してた」
「楽しいからね! 空港ってだけでもうワクワクするっ!」
「勇気出して、誘って良かった」
ちょっと照れながら瑛くんは言った。
「瑛くんが勇気出してくれておれも嬉しい! 瑛くんの勇気がなければおれは今ここにいないかもしれないんだもんねっ」
「そう、だな。俺、本当に今まで友達と遊ぶとかしてこなかったから、全部はるとが初めて」
「何それ~~めっちゃ嬉しいんだけどっ」
友達が感じる、色々な〝はじめて〟をおれが与えているというのは、本当に嬉しい。
他でもない瑛くんだからこそ、より一層嬉しくて溜まらない。
「おれも、瑛くんのおかげで友達と初めて海外旅行することになってるよ! 色々やってきたつもりでいたけど、おれもまだまだはじめてがあるのに気が付いた。明日からはもっと、〝はじめて〟で溢れているんだろうなー」
「そっか。はるともはじめてがあるんだ」
「当たりまえだよ! あ~~~早くウィーンに着かないかなー!!」
これから長い空の旅が始まるのは分かっているし、それはそれで楽しみではあった。
飛行機の中で、瑛くんとどうやって過ごそうか。
ドキドキと心臓が高鳴り続けていた。