両親にはすぐに言いに行くべきだという瑛くんの案に乗って、次の日に瑛くんと共に実家に戻った。
たまたま父さんも家にいる日だったから、4人で向かい合って実家のリビングにいて何だかすごい違和感だった。
軽く自己紹介が終わってからしばらく沈黙が続いてしまい、気まずい空気を破ったのは以外にも瑛くんの声だった。
「息子さんを僕にください!!」
「「「え!??」」」
ついおれまで驚いてしまうくらいいきなりだし、その言葉も言わないといけないことだけどそれよりも先に言うべき話しがあるのに、珍しく瑛くんが狼狽えてしまっていて、おれは瑛くんの手を握った。
おれの温もりに気づいた瑛くんがごめん! と目で謝ってきていて大丈夫とおれは笑った。
すぅと1つ深呼吸をして、瑛くんは改めて言葉を発した。
「す、すみません……いや、間違いじゃないんですけどそれより先に音楽の話しでお願いがありまして……」
「おれ、瑛くんと一緒にピアノデユオでプロを目指したいんだ!!」
瑛くんが先手を打ってくれたから、おれは続けておれの言葉で想いを両親に伝えた。
「その為には、高校在学中も留学をしたいし、高校を出たらウィーンの音楽大学を受験したい! めちゃくちゃ言ってるのは分かってるけど、でも本気なんだ。どうか、お願いします……っ!」
「陽都くんをこっちに誘い込んだのは俺です。ウィーンには俺の両親が住んでいますので、下宿先のことは安心してください。俺には、陽都くんの音が必要なんですっ」
2人で父さんと母さんに頭を下げた。
しばらくして、ふぅと父さんの小さな声が聞こえた。
「……音楽を続けていたらいずれ、そういう道を選ぶ時が来るかもしれないって思っていた。その時が来たら使う為のお金は貯めてある。安心すると良い。だから、そのお金が無駄にならないようにこれから卒業まで精一杯努力しなさい」
「え……いつからそんな……」
「陽都がピアノ習い始めたいって言った時からよ。どうせすぐに飽きるでしょって思ったらまさか、高校まで音楽科のある所に通いたいなんて言うとは思わなかったのよ。びっくりしたけど、素敵な夢じゃない」
母さんも笑ってくれた。
不安だったのは、おれだけで2人ともそんな前からおれの未来を見てくれていたんだ。
「ありがとう、母さん父さん……!」
「ありがとうございますっ!」
どれだけお礼を言ったって足りない。
おれは周りに恵まれすぎている。
「……ところで、さっきの息子さんを僕にくださいという方のことは?」
母さんのその言葉についにきたか、と身構えた。
正直こっちの方が難関かもしれない。
「おれと瑛くん、恋人同士なんだ」
言葉を濁したって仕方ないし、はっきりわかりやすく伝えてしまった方がいいと思っておれはさらっと告げた。
予想通り2人ともぽかんとした顔をしている。
「ピアノのパートナーとしても、人生のパートナーとしてもこれから先の未来、陽都くんと歩んで生きたいと思っています。どうか、僕たちの交際を認めてくださいませんか?」
「おれ、瑛くん以上に好きになれる人現れる気がしないんだ! お願い、母さん父さん!」
しんとまたしても沈黙が続いてしまったけれど、今度は母さんが先に良いんじゃない? と答えてくれた。
「ふらふらしてた陽都をしっかり1本道に導いてくれてありがとうね、瑛くん。この子でよかったらずっと一緒に過ごしてくれたら嬉しいわ。ね、あなた?」
「……まあ、そうだな」
「ありがとうございます!」
おれ達はやったー!! とハイタッチをした。
「何してんの?」
ちょうどおれ達がハイタッチをしていた所に、妹の陽花が帰ってきた。
「陽花……!」
「お兄ちゃん久しぶり、お隣の方は?」
「兄ちゃんの恋人件、ピアノのパートナーの小畑瑛くん」
「小畑瑛です、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……って恋人!????」
妹は分かりやすく動揺していたけど、すぐに冷静になって瑛くんの顔をじっと見るとお兄ちゃんになんてもったいない、なんてとんでもないことをぼそりと呟いていた。
「瑛くんはお兄ちゃんの恋人だからな! 手出したらいくら妹でも許さないぞ!?」
「ちょっと、はると……」
「大丈夫だよ~かっこいいなとは思ったけど、あたしのタイプじゃないし。あたし年上興味ないし」
「あーそう」
何か拍子抜けしてしてしまって、それから落ち着いた頃にみんなで夕食を食べた。
夕食の場で瑛くんもすっかり佐野家に慣れてくれていて嬉しかった。
実家から寮までの帰り道、幸せな気持ちで胸が一杯だった。
「まさか、こんなに全部うまく行くとはねー」
「本当だな。はるとの両親はさすが心が広いな」
「ありがとう〜それにしても狼狽えた瑛くんは新鮮で面白かったな!」
「あれは、ほんとごめん! はるとが手繋いでくれたから冷静に戻れた」
「愛の温もりは偉大だね、なんて」
あははと笑ったら、手を繋がれてちょっと驚いた。
「外だけど良いの? 瑛くん恥ずかしがりやなのに」
「誰も見てないし、今の俺最強になった気分だから」
「珍しく瑛くんの方が大袈裟だ」
駅前まで来るとさすがに人通りが多くなってきたけれど、瑛くんは手を離さなかった。
別に今の時代、男同士女同士も珍しくなくみんな自由に愛を育んでいる。
色々なカップルがいる。
みんなはこれから別々の場所に帰るのだろう。
楽しかった時間が、別々の場所へ帰らないといけないという行為によって途切れてしまうのは寂しいだろうな。
中には同棲しているカップルもいるかもしれないけれど、おれ達はなんと、恋人になる前からルームメイトだから毎日、好きな人と一緒に同じ所へ帰れるんだ。
こんなお得なことはない。
この電車に乗っているカップルたちの中で、きっと誰よりも幸せに溢れていると自信を持って思えた。
そのくらい今のおれは浮かれている。
久しぶりに電車へ乗るとあぁ、そういえば今は夏休みかーなんて当たり前のことを感じるくらいおれ達は夏休みらしい、夏休みを送っていない。
夏休みの高校生らしい、夏祭りとか花火大会とか海とかそういうのをしていない。
そんな時間はおれ達にはないのだから当然で、覚悟の上。
確かに、瑛くんの浴衣姿みたいなぁとか思わないでもないけど……誘ったってきっと嫌がられる。
「何物欲しそうにしてるんだ?」
「えっ! べ、別に何でもないよ」
視線をそらした先になんという偶然か、花火大会のチラシがあった。
「花火大会か。宮瀬湖でやるみたいだな」
「そうなんだ」
「俺、小学生以来、花火見てないからさ見に行きたいかも」
「え! 良いの!? 遊んでる暇もないんじゃ……」
「はるとは、変に気負い過ぎだよ。別に花火大会くらい見ても遅れを取ることはないし、寮の傍でやるものならレッスン終わりにだって見られる。はると、最近無理しすぎてない?」
「無理、してるつもりはないけど……頑張らないとって思って……」
「頑張るのも良いけど、少し力抜きな。だから、花火大会行こう」
瑛くんは笑って言った。
瑛くんは何て優しいんだろう。おれはダメだなぁと思いながら「うん」と頷いた。
「そしたらさ、浴衣着たいな」
「浴衣か、もう何年も着てないな。楽しそう。でも、わざわざ買うのか?」
「何か、寮で浴衣貸し出しするらしいし受付のおばちゃんが着付けもしてくれるんだって~」
「へぇ」
「予約必須らしいから帰りにしていこ!」
夏休みの楽しみが増えて嬉しかった。
音楽のことだってもちろんどれも楽しみだし、大切だけどやっぱり時々は高校生らしいことをしたい。
瑛くんの言う通りおれは少し、気負い過ぎていたかもしれない。
今までの人生でこんな大きな決断をしたことなんてなくて、だから何が正解か分からなくて頑張らないとって焦っていた。
でも、それだけじゃダメなんだ。
きっと、がんばりすぎたらいつかは崩れてしまう。
学校が始まれば嫌でも音楽漬けの毎日になる。それなら、残りの夏休み中少しくらい違うイベントを入れたって罰は当たらないだろう。
「あ~~花火大会楽しみ! 瑛くんの浴衣姿も楽しみだなー」
「俺もはるとの浴衣、楽しみ」
次のレッスン日におれは、先生に瑛くんとピアノデユオとしてプロを目指すことに決めたと伝えた。
先生は驚いていたけど、「そう」と言うとはい、と何やら書類の入ったファイルを差し出してきた。
「これは?」
「2学期から小畑くんと同じクラス、先生に学べる為の転科手続き届け]
「え……先生、知ってたんですか?」
「あなた達がウィーンから帰って来た次の日に小畑くんから連絡があったのよ。あなたからその話しが出たらその書類を渡してくれって」
「そう、だったんですね……」
瑛くんは本当に準備が良いな。
おれが断っていたらどうするつもりだったのだろう。
いや、断るなんて思っていなかったんだろうな。
「その書類全部に名前書いてまた次のレッスンの時に持って来て。夏休み中は私が担当するけど、2学期からは変われるから後少しよろしくね」
「ありがとうございます、よろしくお願いしますっ」
その日の夜、名前を書いている時に瑛くんが帰って来た。
今日は、少し遅くなるから一緒に帰れないと言われていた。
「書類、書いてるんだな」
「瑛くん、何から何までありがと~~」
「別に、俺がしたくてしてるだけだから」
「2学期から学校でも瑛くんと一緒にいられるの嬉しいよ~」
「1学期よりずっと大変になるからな」
「うん、でも楽しみ!」
一歩、一歩進んでいる感じがして胸の高鳴りが止まらなかった。
たまたま父さんも家にいる日だったから、4人で向かい合って実家のリビングにいて何だかすごい違和感だった。
軽く自己紹介が終わってからしばらく沈黙が続いてしまい、気まずい空気を破ったのは以外にも瑛くんの声だった。
「息子さんを僕にください!!」
「「「え!??」」」
ついおれまで驚いてしまうくらいいきなりだし、その言葉も言わないといけないことだけどそれよりも先に言うべき話しがあるのに、珍しく瑛くんが狼狽えてしまっていて、おれは瑛くんの手を握った。
おれの温もりに気づいた瑛くんがごめん! と目で謝ってきていて大丈夫とおれは笑った。
すぅと1つ深呼吸をして、瑛くんは改めて言葉を発した。
「す、すみません……いや、間違いじゃないんですけどそれより先に音楽の話しでお願いがありまして……」
「おれ、瑛くんと一緒にピアノデユオでプロを目指したいんだ!!」
瑛くんが先手を打ってくれたから、おれは続けておれの言葉で想いを両親に伝えた。
「その為には、高校在学中も留学をしたいし、高校を出たらウィーンの音楽大学を受験したい! めちゃくちゃ言ってるのは分かってるけど、でも本気なんだ。どうか、お願いします……っ!」
「陽都くんをこっちに誘い込んだのは俺です。ウィーンには俺の両親が住んでいますので、下宿先のことは安心してください。俺には、陽都くんの音が必要なんですっ」
2人で父さんと母さんに頭を下げた。
しばらくして、ふぅと父さんの小さな声が聞こえた。
「……音楽を続けていたらいずれ、そういう道を選ぶ時が来るかもしれないって思っていた。その時が来たら使う為のお金は貯めてある。安心すると良い。だから、そのお金が無駄にならないようにこれから卒業まで精一杯努力しなさい」
「え……いつからそんな……」
「陽都がピアノ習い始めたいって言った時からよ。どうせすぐに飽きるでしょって思ったらまさか、高校まで音楽科のある所に通いたいなんて言うとは思わなかったのよ。びっくりしたけど、素敵な夢じゃない」
母さんも笑ってくれた。
不安だったのは、おれだけで2人ともそんな前からおれの未来を見てくれていたんだ。
「ありがとう、母さん父さん……!」
「ありがとうございますっ!」
どれだけお礼を言ったって足りない。
おれは周りに恵まれすぎている。
「……ところで、さっきの息子さんを僕にくださいという方のことは?」
母さんのその言葉についにきたか、と身構えた。
正直こっちの方が難関かもしれない。
「おれと瑛くん、恋人同士なんだ」
言葉を濁したって仕方ないし、はっきりわかりやすく伝えてしまった方がいいと思っておれはさらっと告げた。
予想通り2人ともぽかんとした顔をしている。
「ピアノのパートナーとしても、人生のパートナーとしてもこれから先の未来、陽都くんと歩んで生きたいと思っています。どうか、僕たちの交際を認めてくださいませんか?」
「おれ、瑛くん以上に好きになれる人現れる気がしないんだ! お願い、母さん父さん!」
しんとまたしても沈黙が続いてしまったけれど、今度は母さんが先に良いんじゃない? と答えてくれた。
「ふらふらしてた陽都をしっかり1本道に導いてくれてありがとうね、瑛くん。この子でよかったらずっと一緒に過ごしてくれたら嬉しいわ。ね、あなた?」
「……まあ、そうだな」
「ありがとうございます!」
おれ達はやったー!! とハイタッチをした。
「何してんの?」
ちょうどおれ達がハイタッチをしていた所に、妹の陽花が帰ってきた。
「陽花……!」
「お兄ちゃん久しぶり、お隣の方は?」
「兄ちゃんの恋人件、ピアノのパートナーの小畑瑛くん」
「小畑瑛です、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……って恋人!????」
妹は分かりやすく動揺していたけど、すぐに冷静になって瑛くんの顔をじっと見るとお兄ちゃんになんてもったいない、なんてとんでもないことをぼそりと呟いていた。
「瑛くんはお兄ちゃんの恋人だからな! 手出したらいくら妹でも許さないぞ!?」
「ちょっと、はると……」
「大丈夫だよ~かっこいいなとは思ったけど、あたしのタイプじゃないし。あたし年上興味ないし」
「あーそう」
何か拍子抜けしてしてしまって、それから落ち着いた頃にみんなで夕食を食べた。
夕食の場で瑛くんもすっかり佐野家に慣れてくれていて嬉しかった。
実家から寮までの帰り道、幸せな気持ちで胸が一杯だった。
「まさか、こんなに全部うまく行くとはねー」
「本当だな。はるとの両親はさすが心が広いな」
「ありがとう〜それにしても狼狽えた瑛くんは新鮮で面白かったな!」
「あれは、ほんとごめん! はるとが手繋いでくれたから冷静に戻れた」
「愛の温もりは偉大だね、なんて」
あははと笑ったら、手を繋がれてちょっと驚いた。
「外だけど良いの? 瑛くん恥ずかしがりやなのに」
「誰も見てないし、今の俺最強になった気分だから」
「珍しく瑛くんの方が大袈裟だ」
駅前まで来るとさすがに人通りが多くなってきたけれど、瑛くんは手を離さなかった。
別に今の時代、男同士女同士も珍しくなくみんな自由に愛を育んでいる。
色々なカップルがいる。
みんなはこれから別々の場所に帰るのだろう。
楽しかった時間が、別々の場所へ帰らないといけないという行為によって途切れてしまうのは寂しいだろうな。
中には同棲しているカップルもいるかもしれないけれど、おれ達はなんと、恋人になる前からルームメイトだから毎日、好きな人と一緒に同じ所へ帰れるんだ。
こんなお得なことはない。
この電車に乗っているカップルたちの中で、きっと誰よりも幸せに溢れていると自信を持って思えた。
そのくらい今のおれは浮かれている。
久しぶりに電車へ乗るとあぁ、そういえば今は夏休みかーなんて当たり前のことを感じるくらいおれ達は夏休みらしい、夏休みを送っていない。
夏休みの高校生らしい、夏祭りとか花火大会とか海とかそういうのをしていない。
そんな時間はおれ達にはないのだから当然で、覚悟の上。
確かに、瑛くんの浴衣姿みたいなぁとか思わないでもないけど……誘ったってきっと嫌がられる。
「何物欲しそうにしてるんだ?」
「えっ! べ、別に何でもないよ」
視線をそらした先になんという偶然か、花火大会のチラシがあった。
「花火大会か。宮瀬湖でやるみたいだな」
「そうなんだ」
「俺、小学生以来、花火見てないからさ見に行きたいかも」
「え! 良いの!? 遊んでる暇もないんじゃ……」
「はるとは、変に気負い過ぎだよ。別に花火大会くらい見ても遅れを取ることはないし、寮の傍でやるものならレッスン終わりにだって見られる。はると、最近無理しすぎてない?」
「無理、してるつもりはないけど……頑張らないとって思って……」
「頑張るのも良いけど、少し力抜きな。だから、花火大会行こう」
瑛くんは笑って言った。
瑛くんは何て優しいんだろう。おれはダメだなぁと思いながら「うん」と頷いた。
「そしたらさ、浴衣着たいな」
「浴衣か、もう何年も着てないな。楽しそう。でも、わざわざ買うのか?」
「何か、寮で浴衣貸し出しするらしいし受付のおばちゃんが着付けもしてくれるんだって~」
「へぇ」
「予約必須らしいから帰りにしていこ!」
夏休みの楽しみが増えて嬉しかった。
音楽のことだってもちろんどれも楽しみだし、大切だけどやっぱり時々は高校生らしいことをしたい。
瑛くんの言う通りおれは少し、気負い過ぎていたかもしれない。
今までの人生でこんな大きな決断をしたことなんてなくて、だから何が正解か分からなくて頑張らないとって焦っていた。
でも、それだけじゃダメなんだ。
きっと、がんばりすぎたらいつかは崩れてしまう。
学校が始まれば嫌でも音楽漬けの毎日になる。それなら、残りの夏休み中少しくらい違うイベントを入れたって罰は当たらないだろう。
「あ~~花火大会楽しみ! 瑛くんの浴衣姿も楽しみだなー」
「俺もはるとの浴衣、楽しみ」
次のレッスン日におれは、先生に瑛くんとピアノデユオとしてプロを目指すことに決めたと伝えた。
先生は驚いていたけど、「そう」と言うとはい、と何やら書類の入ったファイルを差し出してきた。
「これは?」
「2学期から小畑くんと同じクラス、先生に学べる為の転科手続き届け]
「え……先生、知ってたんですか?」
「あなた達がウィーンから帰って来た次の日に小畑くんから連絡があったのよ。あなたからその話しが出たらその書類を渡してくれって」
「そう、だったんですね……」
瑛くんは本当に準備が良いな。
おれが断っていたらどうするつもりだったのだろう。
いや、断るなんて思っていなかったんだろうな。
「その書類全部に名前書いてまた次のレッスンの時に持って来て。夏休み中は私が担当するけど、2学期からは変われるから後少しよろしくね」
「ありがとうございます、よろしくお願いしますっ」
その日の夜、名前を書いている時に瑛くんが帰って来た。
今日は、少し遅くなるから一緒に帰れないと言われていた。
「書類、書いてるんだな」
「瑛くん、何から何までありがと~~」
「別に、俺がしたくてしてるだけだから」
「2学期から学校でも瑛くんと一緒にいられるの嬉しいよ~」
「1学期よりずっと大変になるからな」
「うん、でも楽しみ!」
一歩、一歩進んでいる感じがして胸の高鳴りが止まらなかった。