「旦那さまも奥さまを亡くしてから、子供たちを立派に育て上げなければと必死でしたから。
悪気があって厳しくしてきたわけじゃないんです」
「……うん。それはなんとなく、感じてる」
「でしたらなによりです。『片親だからと周囲に笑われないように』とつい厳しくなってしまうんでしょうね。
彼氏さんも、嫌な気持ちにさせてしまってごめんなさい」
「いえ、俺は全く。やり方が100%正しいとは言いませんけど、子供のことを思ういいお父さんだと思いました」
彗が落ち着いた笑顔で答えると、美智子さんも安心したように笑う。
……そっか。
お父さんも知っているんだ、大切な人を亡くす喪失感を。
私が彗を失くして感じた悲しみを、お父さんも、お母さんを亡くしたときに感じていたんだろう。
それに自分がのまれてはいけない、と必死に私やお兄ちゃんを育ててくれたのかもしれない。
数年後、数十年後の私たちが苦労しないようにと。
……不器用すぎるでしょ。
言ってくれなきゃわからない、察せない。
だからこそ一方的に言われた気になって、反発してしまった。
そんな自分がひどく子供に思えてまた少し情けなく思えた。
最近は自分の幼さを感じることばかりだ、と痛感する私に美智子さんは言った。
「今すぐに円満な関係なんて築けないでしょう。けど、少しずつ時間をかけて築いていけばいいんですよ」
少しずつ……。
そう、だよね。お父さんとの関係も、自分の心の成長も、少しずつ変わっていけばいい。
背中を押す言葉に、少し心が軽くなった。
それから、美智子さんのすすめで彗も一緒に夕飯をとった。
腹を割って話をしたあとの家族での食事だ。絶対気まずいだろうと思っていたけれど、食事中も彗は自らお父さんに話しかけ、なにかと会話を引き出していた。
最初は彗に対し警戒心を見せていた父もそのうち彗のペースに巻き込まれ、最終的には自分の世代で流行ったバンドの話をし始めていた。
勉強以外の話題を話す父を見ることは幼い頃以来で、その姿はとても意外だった。
本当に、彗のコミュニケーション能力はすごい。
そしてひと息ついて20時を過ぎた頃、帰る彗を見送りに私はマンションの外まで一緒に出た。
空はすっかり暗く、冷たい風がビュウっと吹いた。