彗と初めて接してから、密かに心惹かれていた。

だけど自分から行動することはできず、それ以上距離を縮めることもできないまま。
2年生になった春、クラスが別々になってしまった。


……これで、接点がなくなっちゃった。

廊下に掲示されたクラス分けの用紙を見ながら、失望感に立ち尽くしていると、ちょうどそこに通りがかった彗が声をかけてくれた。



『永井さん。何組だった?』

『1組』

『そっか。俺3組だから、クラス離れちゃったね』



きっと、誰にでも同じような言葉をかけているんだろう。
自分だけ、なんて浮かれてしまわないようにそう言い聞かせた。

すると彗は、思い出したように言う。



『ところで、永井さんって図書委員だったよね』

『え?うん、そうだけど』

『図書委員って楽しい?俺2年では図書委員やろうかなって思ってるんだけど』



うちの学校は全体的に図書室の利用自体が少なく、図書委員は1年のときもあまり人気がなかった。
そんな中での彗の『俺も』という言葉に、私は思わず食いつくように大きく頷いた。

『う、うん!楽しいよ!私2年でもやろうと思ってる』

『そっか。永井さんがいるなら安心だ』



そう笑って、手を振って歩き出した。
彗の後ろ姿に、"きっと誰にでも同じ言葉をかけている"なんて思えなかった。

図書委員は暇そうだからというだけの理由かもしれない。
そう思いながらも期待せずにはいられなかった。


また、彼と接点が持てる。
それをうれしいと思うと同時に、後悔した。

同じクラスで過ごせるうちにもっと頑張ればよかった、って。

私はいつもそう。
臆病で諦め癖がついていて、期待するのも怖いから。なにもできずにあとから後悔することになる。

『今』がいつまでも当たり前に続くなんて、ありえないのに。