「なんだか趣のある町ですね、私の住む世界の京という都に似ています」
 保守の森から町中に入ると、優李はきょろきょろと辺りを見て目を輝かせていた。
「京の都はおまえの世界の長安という国が手本になっているのだろう。長安の町はこの西都が手本になっていると聞く。長安の設計にはひとりのあやかしが携わっているそうだ。そのあやかしがこの町を作った」
「そうなんですね、この国は私の生まれた世界とつながりがあるんですね。なんだか嬉しいです。それにしても、那沙は博識ですね! すごいです」
「おまえより長く生きているからな」
「那沙はおいくつなんですか?」
 見たところ二十歳くらいに見える。落ち着いているからもう少し上かもしれない、と予想しているととんでもない答えが返ってくる。
「人の暦に直すと二百五十年ほど生きている」
「二百五十歳!」
 驚いた、あやかしというのはずいぶんと長生きだ。
「あやかしは長生きなんですね」
 優李の言葉に、那沙は首を横に振る。
「あやかしの寿命は種族や個体によって異なる。俺の一族は長寿だ。数日と生きない儚いものもいる」
「そうなんですね、母も、長く生きたのでしょうか」
「俺よりも長寿な一族だ、希沙良も長く生きたが、共に生きたのはおまえの父だけだ。希沙良は長い生涯の中で多くの出会いと別れを経験する中でおまえの父を選んだ」
 那沙の言葉が優李の中にきらきらと輝きながら落ちてくる。ふたりの出会いは、まるで奇跡みたいだと思った。時任の家でずっと否定されつづけてきた両親のことを認めてもらえたような気がした。
 少し前を歩く端正な横顔を見る。なぜか心が痛くなるような気がして優李は視線を町に移した。あやかしの町は整然としていて美しかった。