「那沙、今夜も旅館に行くのですか?」
朝食の最中、箸を止めた優李は那沙に尋ねた。昨夜も那沙が一人で出かけていることに気が付いていた。
「今夜で最後だ。明日には向こうに帰る。だから今日は買い物に行こうと思う。向こうでは手に入らないものもあるだろうし、おまえの私物を買いたい」
「すみません、お金ばっかりかかってしまって。お店できちんと働きますし、夢も全部採取してもらって大丈夫なので!」
「俺が買ってやりたいから買うだけだ。おまえのためではない」
「結果として私のためになっています」
「安心しろ、おまえの夢は高価だ。おまえにいくら使っても元が取れる。それ以前に、おまえにいくら使ったところで俺の財からしてみれば微々たるものだ、安心しろ」
「そう、ですか……。では、私の一生分の夢は那沙に差し上げます」
優李はそういって無邪気に笑ってからはっと顔を赤らめた。まるで一生一緒にいたいといっているようなものだ。厚かましいにもほどがあるのではないか。
「いやそれは……ありがたいが……」
やはり那沙は迷惑そうだ。いわなければよかった。だが、優李に差し出せるものなど他に何もない。夢でいいのなら、そのすべてを那沙に渡したい。
「すみません、変なことをいって……」
「いや、変ではない。おまえは気を使いすぎる。俺に気を使うな、使われる方も困る」
「す、すみません、わかりました。気を使わないよう気を付けます」
優李はぐっと両手の拳を握って見せたが那沙はふっと笑みを漏らした。それから優李の頭を撫でてくる。
「甘えられるときは甘えたらいい、おまえひとりくらいの願いならばなんだって叶えてやる」
「もう、子ども扱いしないでください。私も、那沙の願いを叶えたいのに」
「別に願いはないが……」
はたと言葉を切った那沙は優李をじっと見つめてから小さくため息をついた。そのしぐさに優李はわずかに傷つきつつ、平静を装う。
時間はまだある、那沙にのためにできることを一生懸命見つけたらいい。
朝食を終えると那沙は優李に洋服を手渡してきた。両手でやっと抱えられるくらいのたくさんの洋服に優李の顔が埋まってしまう。
「俺は服に疎いので遙に揃えてもらった。気に入ったものに着替えろ」
「いけません、こんなに」
「俺は、おまえに何でもしてやりたい。希沙良におまえのことを任されていたというのに今まで人の世に放っておいた。その分を取り戻したい。俺のためだと思って甘えてほしい」
那沙の言葉に優李は視線を落とす。那沙は、自分の境遇に責任を感じてくれているのだろう。その責任感が那沙を必要以上に親切にしている。ここは甘えるのが礼儀なのだろうけれど、優李は言葉にできない悲しさを感じた。
「では、着替えてきますね。少しお待たせします」
自室として与えられた客間に戻ると優李は渡された服をベッドの上に並べた。今まで着たことがないような可愛らしいワンピースや着心地の良さそうな手触りの良いスカートを眺めていると、どれも自分には似合わないような気がしてくる。媛子ならば上手に着こなすことができるのだろう。
さんざん悩んだ挙句、白いワンピースを選んだ。淡い色の服は汚れが目立つので今までほとんど着たことがない。洋装をするのは初めてだ。
「あ、あの、着替えが終わりました。待たせてしまってごめんなさい」
「待ってなどいない。いくぞ」
「那沙は洋服も似合いますね」
「こちらの世界ではこの方が伯爵らしいのだろう?」
那沙はいつもの灰白の着物ではなく白のワイシャツに黒のスラックスという格好だった。シンプルだが清潔感がありとても似合っている。髪の毛も瞳の色も黒くなっている。
那沙が自分の格好を見て変に思わないだろうかと不安になりながらも優李は那沙の半歩後ろを歩いて屋敷を出る。優李のものと買うと那沙はいっていたけれど、なにを買うつもりだろう。もともと私物はないのだから、わざわざ買うようなものはない。
「優李、ひとつ話しておかなければいけないことがある」
「はい」
「おまえはうちで働けばいいと思っているのだが、もしもどうしても行きたいというのなら西都の学校に通ってはどうかと思う。教育を受けていて悪いことはない」
「あやかしの国のですか?」
「そうだ。あちらの方が、俺の目が届きやすい。おまえはあちらで生活すればいい」
優李にとって願ってもない話だった。いろいろ学ぶことができたら那沙の役に立てるかもしれない。だが期待の分だけ不安も募る。優李は学校に通ったことがない。
「私、学校にいきたい気持ちはあるのですが、勉強というものをしたことがないので、ついていけるかどうか……」
「わからないところは俺が教えてやる」
「本当ですか!」
「もちろんだ」
「嬉しいです」
商店街を歩いていると周りの人々が優李を奇異の目で見てくる。那沙もそれに気が付いたかもしれないと思うと恥ずかしい。
「ねえ、あれ猫の子じゃないかい? 隣にいるのは誰かしら」
「今まで時任さんのお家で厄介になってたはずじゃないか。なんだってあんな小綺麗な格好……」
「それにあの横にいる人は誰だろうね、あんなひとこの町にいたかしら、ものすごい美男子だけれど」
「あの猫の子のことだ、また誰かの恋人を盗ろうとしているに違いないよ。あの母親が礼子さんから遼一さんを奪ったようにね」
「きっとそうだ。大変、礼子さんに知らせてやらなきゃ。あのひとも誰の恋人か探さなきゃね」
漏れ聞こえてくる話し声が痛い。那沙たちとの穏やかな時間に慣れてしまったせいだ。暑さのせいか目眩がした。足取りが重くなる。那沙の背中が少しずつ遠くなるのを感じる。ちゃんと歩かないと那沙に迷惑をかけてしまう。
すると突然那沙が肩を抱くようにして抱き寄せてきた。
「俺から離れるな」
「でも、那沙まで変な目で見られるかもしれないので……」
「優李、連れ出したりして悪かった。俺の認識が間違っていた。もう家に帰るぞ」
ふわりと体が浮いたかと思うと、那沙が自分の体を抱き上げている。
「な、那沙、下ろしてください」
「嫌だ。奇異の目で見られるならこれくらいした方がいい」
優李の訴えもむなしく、那沙は優李を抱き上げたまま道を歩き、大通りで馬車を拾う。馬を止めた御者は驚いたような顔をしていた。優李は恥ずかしくて那沙の服に顔を隠す。
「竜王山の中腹まで頼む」
「あ、あの、あそこには一軒しか家がありませんが……」
「そこでいい」
「あのお屋敷で?」
「ああ間違いない」
タクシーの運転手は鏡越しに優李と那沙を交互に見ている。
「あのお屋敷は調月様のお屋敷ですが……」
「つべこべいわずに車を走らせろ。俺が調月だ、妻が調子を悪くしている、急いでくれ」
タクシーの運転手は驚きつつも慌ててうなずきアクセルを踏んだ。那沙の腕に抱きかかえられたままの優李はといえば、恥ずかしくて顔が熱くなるばかりだ。屋敷の前でタクシーから降ろされてからも両手で顔を覆ったままだ。
「どうして顔を隠している」
「那沙が私のことを奥さんだっていうから……」
「何も問題はない。これでおまえに無礼を働くものもいなくなるだろう」
「ですがまたそんな嘘を……」
「勝手なことをして悪かった」
「いえ、でも本当に助かりました。私、この町ではあまり歓迎されていなくて……」
言葉にすると余計にみじめになる。優しい那沙は哀れに思ってくれるだろう。それが辛い。
「それはおまえのせいではない。希沙良と遼一のせいだろう、そもそもふたりのせいでもあるまいが……」
「叔母と父がどのような関係にあったか詳しくは知りません。叔母がいうように本当に母が父を奪ったのかもしれない。そうでなくとも叔母はつらかったと思います。だから、私の扱いは当然のものだと思っています」
「その咎をおまえが受ける必要はない。そもそもあの女は旅館の方に執着しているようだった。遼一のことも、自分のものだと思っていたものが手に入らず駄々をこねていたにすぎないのだろう。ほしいものをもらえずに腹を立てる子供と同じだ。おまえが気に掛ける必要はない」
思わず視界がにじむ。那沙の優しい言葉が、余計につらいと思ってしまう。父は早くに病死した。母はひとりでどれだけの苦労を持って自分を育ててくれていたのか、周りからの扱いを見れば嫌でもよくわかる。母ひとりならあやかしの世に帰ればよかったのだろう。それが出来なかったのは自分がいたから。
「母は自殺でしょうか……」
思わずこぼれた言葉とともに、頬を涙が伝う。
「私が、母を死に追いやったのでしょうか」
今まで言葉にしていなかった想像が涙とともに零れ落ちる。もう止めようがなかった。那沙の優しさに触れて心がどんどん弱くなっていく気がする。
泣くな、これ以上那沙に甘えるのはやめなければいけない。
頭ではわかっているのに涙が止められない。
「優李、希沙良はそういうやつではない。あまり器用ではなかったが、間違ってもおまえを残していたずらに死を選ぶようなやつではない。希沙良の死にはなにか原因があったに違いない。だからあいつは、前もって俺におまえのことを頼んできたのだと思う。なにか、命の危機に瀕する可能性を察していたのだ」
那沙の言葉は優しい。弱音を吐けば那沙は絶対にこうやって優李を勇気づけようとしてくれる。それがわかっていて泣くのはずるい。
もっと強くならなければいけない。那沙にこれ以上心配をかけないように。だから泣くのはこれで終わりだ。私にできることは、那沙に笑顔を見せることだけなのだから。
優李はぐっと涙を飲み込んだ。
朝食の最中、箸を止めた優李は那沙に尋ねた。昨夜も那沙が一人で出かけていることに気が付いていた。
「今夜で最後だ。明日には向こうに帰る。だから今日は買い物に行こうと思う。向こうでは手に入らないものもあるだろうし、おまえの私物を買いたい」
「すみません、お金ばっかりかかってしまって。お店できちんと働きますし、夢も全部採取してもらって大丈夫なので!」
「俺が買ってやりたいから買うだけだ。おまえのためではない」
「結果として私のためになっています」
「安心しろ、おまえの夢は高価だ。おまえにいくら使っても元が取れる。それ以前に、おまえにいくら使ったところで俺の財からしてみれば微々たるものだ、安心しろ」
「そう、ですか……。では、私の一生分の夢は那沙に差し上げます」
優李はそういって無邪気に笑ってからはっと顔を赤らめた。まるで一生一緒にいたいといっているようなものだ。厚かましいにもほどがあるのではないか。
「いやそれは……ありがたいが……」
やはり那沙は迷惑そうだ。いわなければよかった。だが、優李に差し出せるものなど他に何もない。夢でいいのなら、そのすべてを那沙に渡したい。
「すみません、変なことをいって……」
「いや、変ではない。おまえは気を使いすぎる。俺に気を使うな、使われる方も困る」
「す、すみません、わかりました。気を使わないよう気を付けます」
優李はぐっと両手の拳を握って見せたが那沙はふっと笑みを漏らした。それから優李の頭を撫でてくる。
「甘えられるときは甘えたらいい、おまえひとりくらいの願いならばなんだって叶えてやる」
「もう、子ども扱いしないでください。私も、那沙の願いを叶えたいのに」
「別に願いはないが……」
はたと言葉を切った那沙は優李をじっと見つめてから小さくため息をついた。そのしぐさに優李はわずかに傷つきつつ、平静を装う。
時間はまだある、那沙にのためにできることを一生懸命見つけたらいい。
朝食を終えると那沙は優李に洋服を手渡してきた。両手でやっと抱えられるくらいのたくさんの洋服に優李の顔が埋まってしまう。
「俺は服に疎いので遙に揃えてもらった。気に入ったものに着替えろ」
「いけません、こんなに」
「俺は、おまえに何でもしてやりたい。希沙良におまえのことを任されていたというのに今まで人の世に放っておいた。その分を取り戻したい。俺のためだと思って甘えてほしい」
那沙の言葉に優李は視線を落とす。那沙は、自分の境遇に責任を感じてくれているのだろう。その責任感が那沙を必要以上に親切にしている。ここは甘えるのが礼儀なのだろうけれど、優李は言葉にできない悲しさを感じた。
「では、着替えてきますね。少しお待たせします」
自室として与えられた客間に戻ると優李は渡された服をベッドの上に並べた。今まで着たことがないような可愛らしいワンピースや着心地の良さそうな手触りの良いスカートを眺めていると、どれも自分には似合わないような気がしてくる。媛子ならば上手に着こなすことができるのだろう。
さんざん悩んだ挙句、白いワンピースを選んだ。淡い色の服は汚れが目立つので今までほとんど着たことがない。洋装をするのは初めてだ。
「あ、あの、着替えが終わりました。待たせてしまってごめんなさい」
「待ってなどいない。いくぞ」
「那沙は洋服も似合いますね」
「こちらの世界ではこの方が伯爵らしいのだろう?」
那沙はいつもの灰白の着物ではなく白のワイシャツに黒のスラックスという格好だった。シンプルだが清潔感がありとても似合っている。髪の毛も瞳の色も黒くなっている。
那沙が自分の格好を見て変に思わないだろうかと不安になりながらも優李は那沙の半歩後ろを歩いて屋敷を出る。優李のものと買うと那沙はいっていたけれど、なにを買うつもりだろう。もともと私物はないのだから、わざわざ買うようなものはない。
「優李、ひとつ話しておかなければいけないことがある」
「はい」
「おまえはうちで働けばいいと思っているのだが、もしもどうしても行きたいというのなら西都の学校に通ってはどうかと思う。教育を受けていて悪いことはない」
「あやかしの国のですか?」
「そうだ。あちらの方が、俺の目が届きやすい。おまえはあちらで生活すればいい」
優李にとって願ってもない話だった。いろいろ学ぶことができたら那沙の役に立てるかもしれない。だが期待の分だけ不安も募る。優李は学校に通ったことがない。
「私、学校にいきたい気持ちはあるのですが、勉強というものをしたことがないので、ついていけるかどうか……」
「わからないところは俺が教えてやる」
「本当ですか!」
「もちろんだ」
「嬉しいです」
商店街を歩いていると周りの人々が優李を奇異の目で見てくる。那沙もそれに気が付いたかもしれないと思うと恥ずかしい。
「ねえ、あれ猫の子じゃないかい? 隣にいるのは誰かしら」
「今まで時任さんのお家で厄介になってたはずじゃないか。なんだってあんな小綺麗な格好……」
「それにあの横にいる人は誰だろうね、あんなひとこの町にいたかしら、ものすごい美男子だけれど」
「あの猫の子のことだ、また誰かの恋人を盗ろうとしているに違いないよ。あの母親が礼子さんから遼一さんを奪ったようにね」
「きっとそうだ。大変、礼子さんに知らせてやらなきゃ。あのひとも誰の恋人か探さなきゃね」
漏れ聞こえてくる話し声が痛い。那沙たちとの穏やかな時間に慣れてしまったせいだ。暑さのせいか目眩がした。足取りが重くなる。那沙の背中が少しずつ遠くなるのを感じる。ちゃんと歩かないと那沙に迷惑をかけてしまう。
すると突然那沙が肩を抱くようにして抱き寄せてきた。
「俺から離れるな」
「でも、那沙まで変な目で見られるかもしれないので……」
「優李、連れ出したりして悪かった。俺の認識が間違っていた。もう家に帰るぞ」
ふわりと体が浮いたかと思うと、那沙が自分の体を抱き上げている。
「な、那沙、下ろしてください」
「嫌だ。奇異の目で見られるならこれくらいした方がいい」
優李の訴えもむなしく、那沙は優李を抱き上げたまま道を歩き、大通りで馬車を拾う。馬を止めた御者は驚いたような顔をしていた。優李は恥ずかしくて那沙の服に顔を隠す。
「竜王山の中腹まで頼む」
「あ、あの、あそこには一軒しか家がありませんが……」
「そこでいい」
「あのお屋敷で?」
「ああ間違いない」
タクシーの運転手は鏡越しに優李と那沙を交互に見ている。
「あのお屋敷は調月様のお屋敷ですが……」
「つべこべいわずに車を走らせろ。俺が調月だ、妻が調子を悪くしている、急いでくれ」
タクシーの運転手は驚きつつも慌ててうなずきアクセルを踏んだ。那沙の腕に抱きかかえられたままの優李はといえば、恥ずかしくて顔が熱くなるばかりだ。屋敷の前でタクシーから降ろされてからも両手で顔を覆ったままだ。
「どうして顔を隠している」
「那沙が私のことを奥さんだっていうから……」
「何も問題はない。これでおまえに無礼を働くものもいなくなるだろう」
「ですがまたそんな嘘を……」
「勝手なことをして悪かった」
「いえ、でも本当に助かりました。私、この町ではあまり歓迎されていなくて……」
言葉にすると余計にみじめになる。優しい那沙は哀れに思ってくれるだろう。それが辛い。
「それはおまえのせいではない。希沙良と遼一のせいだろう、そもそもふたりのせいでもあるまいが……」
「叔母と父がどのような関係にあったか詳しくは知りません。叔母がいうように本当に母が父を奪ったのかもしれない。そうでなくとも叔母はつらかったと思います。だから、私の扱いは当然のものだと思っています」
「その咎をおまえが受ける必要はない。そもそもあの女は旅館の方に執着しているようだった。遼一のことも、自分のものだと思っていたものが手に入らず駄々をこねていたにすぎないのだろう。ほしいものをもらえずに腹を立てる子供と同じだ。おまえが気に掛ける必要はない」
思わず視界がにじむ。那沙の優しい言葉が、余計につらいと思ってしまう。父は早くに病死した。母はひとりでどれだけの苦労を持って自分を育ててくれていたのか、周りからの扱いを見れば嫌でもよくわかる。母ひとりならあやかしの世に帰ればよかったのだろう。それが出来なかったのは自分がいたから。
「母は自殺でしょうか……」
思わずこぼれた言葉とともに、頬を涙が伝う。
「私が、母を死に追いやったのでしょうか」
今まで言葉にしていなかった想像が涙とともに零れ落ちる。もう止めようがなかった。那沙の優しさに触れて心がどんどん弱くなっていく気がする。
泣くな、これ以上那沙に甘えるのはやめなければいけない。
頭ではわかっているのに涙が止められない。
「優李、希沙良はそういうやつではない。あまり器用ではなかったが、間違ってもおまえを残していたずらに死を選ぶようなやつではない。希沙良の死にはなにか原因があったに違いない。だからあいつは、前もって俺におまえのことを頼んできたのだと思う。なにか、命の危機に瀕する可能性を察していたのだ」
那沙の言葉は優しい。弱音を吐けば那沙は絶対にこうやって優李を勇気づけようとしてくれる。それがわかっていて泣くのはずるい。
もっと強くならなければいけない。那沙にこれ以上心配をかけないように。だから泣くのはこれで終わりだ。私にできることは、那沙に笑顔を見せることだけなのだから。
優李はぐっと涙を飲み込んだ。