7月。
夏休みを来週に控えた世の中は一気に真夏の様相を呈している。蝉はうるさいくらいに鳴いて、太陽はこれでもかと照りつけて。
「ちわー。お、ミウ。どっか行くの?」
「ピアノだよ。」
「エライな。暑いから気を付けてけよ。」
「はぁい。お兄ちゃんなら寝てるよ。」
「あいついっつも寝てんな。」
「まぁ寝る子は育つって言うし。いってきまーす。」
「はは。いってらっしゃい。」
チサと別れて数日。側から見たら何も変わらないと思う。それくらい、チサは今まで通りに振る舞ってくれている。
イツキとの関係も変わっていない。
何かを変えたいとか、例えば告白したいとかは思ってないしな。
このままでいいんだよ。
イツキには彼女も、いるし。
今まで通りちょっと仲の良い幼馴染ポジションで全然良い。じゅーぶん。
トントンと階段を上りながら俺はそんなことを考える。
「イツキー。」
イツキはミウの言っていた通り、腹を出してぐうぐう寝ていた。
「ノートとりにきたぞ。」
イツキは一度寝てしまったらなかなか起きない。
貸しっぱなしになっているノートを返してほしいとメッセージを送ってはあったのだけれど、これじゃぁ既読にならないはずだ。
ベッド脇に放り投げられている紺色の通学バッグを見つけてしゃがみ込む。
「勝手に持ってくからなー。」
すぐに目当てのノートを探し出し、バッグを元通りにして、ふと顔を上げると、目の前にイツキの寝顔があった。
いたずら心が込み上げる。
お前のせいでノート無くて困ったんだぞ。
鼻をツンツンとつついてやると、イツキはむず痒そうに眉をわずかに顰めた。
ぷぷ。
間抜けな顔。
さらに追撃、と、ツンツンする。
「やーめろってぇ……」
むにゃむにゃと言った。
くふふ、と、笑いを堪えていると、突然伸びて来た腕にがっしりと首を掴まれてしまった。
「ちょっイツキ……」
強引に引き寄せられ、おでことおでこがぎゅうぎゅうくっつく。
「イツキ、離せ……っ」
「んんん……」
腕にさらに力が入る。
「イツキ、起きてんの??ちょ、ほんっと……」
「ん〜、、」
息がかかって、これ、なんか、やばい、、やば
「イツキ…っ」
「おまえ、また……」
「へ……?」
「また勝手に…ふとん入って……」
勝手に、ふとん、入ってって、言った……?
誰かと、間違えてるんだ。
こんな風に強く抱きしめて、顔をすり寄せる様な誰か、と。
胸の奥がぐぐぐと締め付けられた。
この綺麗な寝顔も起き抜けの間抜けな顔も、きっともう俺だけのものじゃない。
もう、キスとか、それ以上のことを。
俺はどうして早く自分の気持ちに気が付かなかったんだろう、いや、気づいたところで……
「…き……」
え……
今なんて…
「…すき……」
微かに開かれた唇から聞こえた吐息の様な2文字は、この至近距離で聞き間違えであるはずもなくて。
誰か、に向けられた言葉。
叶うなら、全部全部、俺だったら、良かったのに。
バカみたいにそんなことを考えながら、俺はイツキの唇に、はじめてのキスをした。
「ん……」
イツキの声に我に返り、突き飛ばす様にして体を引き剥がす。
「んぁっ……んんん、あれ、コウ……?」
未だ微睡の中で、イツキが言う。
「ふぁぁ、なんか……なんかめっちゃいい夢見てた気がする。」
俺、俺今……
「帰る。」
「へ?」
「帰る。」
「んん?コウ、なにしにきたの?」
逃げる様に部屋を飛び出した。後ろでイツキが何か言っていたような気がしたけど、振り向くことはできなかった。
なにが幼馴染ポジションだ、それ以上は求めないだ。
どす黒い嫉妬と、後悔。頭がぐらぐらする。
脳味噌とは裏腹に唇に残る感覚に身体は信じられないくらい欲情して、その日俺は初めてイツキを想いながら何度も何度も欲望をぶち撒けた。
夏休みを来週に控えた世の中は一気に真夏の様相を呈している。蝉はうるさいくらいに鳴いて、太陽はこれでもかと照りつけて。
「ちわー。お、ミウ。どっか行くの?」
「ピアノだよ。」
「エライな。暑いから気を付けてけよ。」
「はぁい。お兄ちゃんなら寝てるよ。」
「あいついっつも寝てんな。」
「まぁ寝る子は育つって言うし。いってきまーす。」
「はは。いってらっしゃい。」
チサと別れて数日。側から見たら何も変わらないと思う。それくらい、チサは今まで通りに振る舞ってくれている。
イツキとの関係も変わっていない。
何かを変えたいとか、例えば告白したいとかは思ってないしな。
このままでいいんだよ。
イツキには彼女も、いるし。
今まで通りちょっと仲の良い幼馴染ポジションで全然良い。じゅーぶん。
トントンと階段を上りながら俺はそんなことを考える。
「イツキー。」
イツキはミウの言っていた通り、腹を出してぐうぐう寝ていた。
「ノートとりにきたぞ。」
イツキは一度寝てしまったらなかなか起きない。
貸しっぱなしになっているノートを返してほしいとメッセージを送ってはあったのだけれど、これじゃぁ既読にならないはずだ。
ベッド脇に放り投げられている紺色の通学バッグを見つけてしゃがみ込む。
「勝手に持ってくからなー。」
すぐに目当てのノートを探し出し、バッグを元通りにして、ふと顔を上げると、目の前にイツキの寝顔があった。
いたずら心が込み上げる。
お前のせいでノート無くて困ったんだぞ。
鼻をツンツンとつついてやると、イツキはむず痒そうに眉をわずかに顰めた。
ぷぷ。
間抜けな顔。
さらに追撃、と、ツンツンする。
「やーめろってぇ……」
むにゃむにゃと言った。
くふふ、と、笑いを堪えていると、突然伸びて来た腕にがっしりと首を掴まれてしまった。
「ちょっイツキ……」
強引に引き寄せられ、おでことおでこがぎゅうぎゅうくっつく。
「イツキ、離せ……っ」
「んんん……」
腕にさらに力が入る。
「イツキ、起きてんの??ちょ、ほんっと……」
「ん〜、、」
息がかかって、これ、なんか、やばい、、やば
「イツキ…っ」
「おまえ、また……」
「へ……?」
「また勝手に…ふとん入って……」
勝手に、ふとん、入ってって、言った……?
誰かと、間違えてるんだ。
こんな風に強く抱きしめて、顔をすり寄せる様な誰か、と。
胸の奥がぐぐぐと締め付けられた。
この綺麗な寝顔も起き抜けの間抜けな顔も、きっともう俺だけのものじゃない。
もう、キスとか、それ以上のことを。
俺はどうして早く自分の気持ちに気が付かなかったんだろう、いや、気づいたところで……
「…き……」
え……
今なんて…
「…すき……」
微かに開かれた唇から聞こえた吐息の様な2文字は、この至近距離で聞き間違えであるはずもなくて。
誰か、に向けられた言葉。
叶うなら、全部全部、俺だったら、良かったのに。
バカみたいにそんなことを考えながら、俺はイツキの唇に、はじめてのキスをした。
「ん……」
イツキの声に我に返り、突き飛ばす様にして体を引き剥がす。
「んぁっ……んんん、あれ、コウ……?」
未だ微睡の中で、イツキが言う。
「ふぁぁ、なんか……なんかめっちゃいい夢見てた気がする。」
俺、俺今……
「帰る。」
「へ?」
「帰る。」
「んん?コウ、なにしにきたの?」
逃げる様に部屋を飛び出した。後ろでイツキが何か言っていたような気がしたけど、振り向くことはできなかった。
なにが幼馴染ポジションだ、それ以上は求めないだ。
どす黒い嫉妬と、後悔。頭がぐらぐらする。
脳味噌とは裏腹に唇に残る感覚に身体は信じられないくらい欲情して、その日俺は初めてイツキを想いながら何度も何度も欲望をぶち撒けた。