小3の夏休み、2人で冒険旅行と銘打って出掛けたことがあった。親たちには内緒で、目的地も決めないで、リュックにお菓子をぱんぱんに詰め込んで。
わくわくどきどきと、少しの不安。けど、2人でいれば俺達は最強だった。どこまでも行ける気がした。

「やってること変わんねーな。」
窓の外を眺めながらイツキが笑う。
同じことを思い出していたんだろう。テレパシーみたいだ。
あの頃と違うのは、2人とも背がうんと伸びたこと、スマホで乗り換え検索なんかしちゃうこと、……リュックの中身。
それから、お互いを想う気持ち。
どうかな。
変わっていないのかもしれない。
世界一大切で、ずっと一緒だって気持ちは、きっと今も昔も変わらない。

できるだけ遠くの街まで行ってみようと電車を乗り継いだら、終電ギリギリでたどり着いたのは海沿いの街の駅だった。
真っ暗で何も見えないけれど、絶えず波の音が聞こえる。海は確かにそこにあるらしい。

「こういうホテルって、男2人で入れちゃうもんなんだな。」
荷物を絨毯の上にどさりと置いて、イツキは言った。
「呼び止められたりしたらどうしようかと思った。親呼ばれたりとか。」
「ははっ、それはやべーな。ぅおっベッドすげースプリング。」
ベッドに腰掛けたイツキはぼいんぼいんとふざけて跳ね、そのまま寝転んだ。
「ふはっ見て、コウ、天井鏡んなってる。ほんとにあるんだなこんなとこ。都市伝説かと思ってた。」
「ほんとだ。すごいな。」
「なー……。なんか、すげー遠くまで来たな。」
目を閉じ、イツキは呟いた。
「うん。」
「来れるもんなんだな……。」
「ん。イツキ、眠い?」
「ちょっと。」
「寝る?」
「……いいの?」
「……だめ。」
「ふ。……俺だってやだよ。」

✽✽✽

「体、大丈夫か?」
「う〜あんまり。。」
「だよなぁ……。なんか飲む?」
「水ほしい。」
「よしわかった。」
リュックを探り、駅の自販機で買ったミネラルウォーターのペットボトルを手渡す。
イツキはこくこくと喉を鳴らしてそれを飲むと、掠れた声で「ぬるい。」と小さく笑った。
「今なんじ?」
「……朝の5時。」
「ぶはっっ、まじか。俺ら何時間やってんだよ。」
「ごめん。暴走した。」
「なんでコウが謝んの。2人でしたんでしょ。」
「そーだけど。ちょっと止めらんなかったから。」
それはもうがっついてしまった。
だってイツキがあんな……
「ふふ。体力オバケ。」
「すまん。」
「いーってば。」
「ちょっと寝るか?」
「んー。風呂入りたい。」
「わかった。お湯溜めてくるな。」
「待って。」
視線がぶつかり、世界一かわいいイツキの唇を受け止める。これだけ長い時間とろけあって、好きという気持ちはますます溢れるばかりだ。
「……イツキ。」
「んー?」
ちゅ、ちゅ、と唇を触れ合わせたままイツキが首を傾げる。あーーもう可愛い。
「風呂、泡にできるみたいだけど、してみる?」
「マジ?やってやって。」
「はははっ、子供か。」
「いーじゃん。あわあわにして一緒入ろ。」
「おっけ。用意してくるからイツキもうちょっと休んでろな。」
「はぁい。」

「小2くらいまではさ、風呂とか一緒に入ってたよな。」
「あれはまぁ風呂っつーか、2人とも泥だらけで、とにかくまとめて突っ込まれてた感じだったけどな。」
「ふふ。」
イツキはあわあわの風呂の中で俺の体を背もたれみたいにして身を委ね、すっかりリラックスした様子だ。
「こーいう泡の風呂入りたくてボディソープとかシャンプーとか風呂に全部ぶちこんだことあったよな。」
「ははっ、あったあった。めちゃくちゃ暴れてかき混ぜて。」
「なのに全然泡立たなくてただなんかぬるぬるんなって。」
「んでめっっっちゃ怒られたよな。」
「あん時のイツキの母ちゃんすげー怖かった。」
「コウんちの母ちゃんもだろ。」
くすくすと震わせる肩はするりとなだらかで、無意識に撫でてしまう。
「コウ、今日も部活休みだろ?」
「うん。今日まで。」
「じゃーどっかで遊んでから帰ろーぜ。」
「いいけど、体へーき?」
「へーきへーき。行きたいとことかある?」
「んー……あ。」
「なに?」
「いや……」
「なんだよ。」
「クレープ、食い行こう。」
「クレープ……?ふははっ、俺の話気にしてたんか。」
「してない。」
「してるじゃん。」
「してない。たまたま食いたくなっただけ。」
「わかったわかった。食いいこーな。……コウは?何した?チサちゃんと。」
「そうだな……参考書、買いに行った。行く?」
「それはいいや。遠慮しとく。」
「イツキはむしろ買えよ。」
「ははっ。いらねー。」