チサと俺が付き合い始めたことはすぐに皆に知れ渡り、効果てきめんというのか、無闇に告白される事は無くなった。
付き合うといってもチサとは元々よく話したりしていたし今までとなにも変わらないのに、変な物だなと思ったりした。
我が物顔で俺のベッドに寝転び漫画を読み耽るイツキもいつも通りだ。本当に、何も変わらない。
「そーいやイツキ、古文のノート出したか?今井先生怒ってたぞ。」
「あ、やべー忘れてた。」
漫画から顔を上げもせず、全然やべーなんて思ってない口ぶりだ。
「英語のワークも出してなかったろ。」
「ん〜?うん……そうかもなぁ……」
「お前なぁ……ん?てか、それ俺の服じゃね?」
妙にぶかぶかのトレーナー、見覚えがあると思ったら。
「あぁ、借りた。コウの部屋寒いんだもん。」
「寒いならちゃんと着てこいよ。なんで下はそれなんだよ。」
「下は暑いんだよ。」
イツキはショートパンツから曝け出された両足をパタパタと動かした。
「この前もそのまま寝て涎垂らしたろ。脱げ。今すぐ。」
「え〜やだ〜。」
「こんにゃろ、ほら脱げっ。」
寝転がるイツキに覆いかぶさってぐいぐいと脱がしてやる。力では俺に敵うまい。加えてイツキはくすぐったがりだ。
「んははっ、やめっ引っ張んなっっ、くすぐったっっ、あははは」
弱点だって熟知している。こいつは首の下がめちゃくちゃ弱い。
「ぅりゃっ。」
「……んぁっ……」
……え?
思わずピタリと動作が停止してしまう。
それはイツキも同じで、自分から出た声に驚いたのか、俺の下で両手で口をおさえて目をまん丸にしていた。
「イツキ、……」
呼び掛けた俺の声を合図にするみたいにぶわわ、と赤面したイツキに、一瞬遅れて俺も顔が熱くなる。
2人きりの部屋が妙に静かに感じた。長いのか短いのか分からない様な、間。
先に口を開いたのはイツキだった。
「……コウ、あのさ、俺、」
その時。
ぽこん、と間抜けな音がして、俺のスマホがメッセージの受信を知らせた。
ぽこん、ぽこんと立て続けに鳴る。
「……コウ、スマホ。」
「……うん。」
ギクシャクとベッドから離れ、勉強机の上のスマホを手に取った。
「……チサちゃん?」
「ん?うん。明日、参考書買いに行くから一緒に選んでくれないかって。」
「ふーん。……デートか。」
「デートじゃ、……まぁ、そうか。」
そうなるか、付き合ってんだもんな。
「……俺帰るわ。」
「え?飯は?」
「……今日俺んちじゃん。」
「あぁ、そうだった。」
「んじゃ。またあとで。」
「おぅ、えってかイツキ、俺の服……っ」
着たまま帰ってんじゃねぇよ……。