3日目 早朝。
顔を洗い、和室をそっと覗くと、寝ているはずのイツキの姿がなかった。

トイレでも行ったか?と不思議に思っていると、カチャリと廊下の奥のドアが開き、イツキが大きなあくびをしながら出てきた。
「コウ。おはよー。」  
「おはよ。どした?早いな。」
「んー?ちょっと。また寝る。おやすみ。」
「おぉ、おやすみ。」
またひとつ大あくびをしてイツキは和室へ入っていき、すぐにぴょこりと顔だけ出す。
「いってらっしゃい。部活。」
「うん、いってきます。」
俺が応えると、今にも閉じてしまいそうな目でふにゃりと笑った顔は和室へ引っ込み、ドサッとふとんに倒れ込む音がして、すぐに静かになった。
なんだ?あいつ。寝ぼけてたのかな。
とにかく朝食をとろうと、今しがたイツキがあくびをしながら出てきたリビングへ向かう。
そして、ダイニングテーブルに小さな包みを見つけた。
「……っ、これ……!!!」

昼。
震える手でパカリと弁当箱のフタを開け、
感動を噛みしめながら手を合わせる。
迷った挙句にたまごやきをひとくち。むかしからイツキんちのたまごやきはしょっぱくて、うちのは甘い。弁当に入っていたのは、じんわりと甘いたまごやきだった。
「あっっコウ!なにその弁当うまそ!」
パンを齧っていたサクマが大きな声で言う。
「一口ちょーだ、」
「やらない。」
「なんだよケチー。」
「絶っ対だめ。」
「タコのウィンナーひとつでいいから……」
「いーやーだ。タコもカニもやらん。」
「え、ほんとだ、こっちタコでこっちカニだな。あーいいな〜俺も彼女に弁当作ってもらうとかしてーなー。」
たらこのおにぎりも美味しい。こっちのは……からあげが入ってる……!うっま。

「もしもしイツキ?」
「おー、おつかれー。」
「弁当めっっっちゃうまかった。ありがとう。」
「へへ。どーいたしまして。」
「早起きしたん?」
「まーな。ちょびっとだけど。」
「すげーじゃん。」
「やればできる男なんですよ。」
「うん。」
「コウも、今日も朝飯ありがと。」
「目玉焼き潰れちまったけどな。」
「そんなんぜんぜんいーよ。……あのさ?」
「うん?」
「今日もがっこー行っていい?」
「え?」
「っや、あれだ、学校の近くにでかめのスーパーあんじゃん?今日特売なんだよ。コウんちの醤油きれそうだし、買っといた方がいいかなって、いや、……っごめんっ、変なこと言った。忘れて、」
「いーよ。いいってか、来て。一緒帰ろ。」
「……うん。今日はコウがアイス係な!」
「いつできたんだよそんな係。」
「今作った。」
「ははっ、なんだそれ。あ、ごめん、俺行かないと。午後練始まる。」
「おぉ。」
「ん。じゃーまた。あとで。」
「またなー。がんばれー。」
「おー。」
がんばる。
めっちゃがんばる。

「お、まーたニヤニヤして。」
相変わらずのサクマの揶揄いも、まーったく気にならない。
「今日もデートだろ。ごちそうさまだなー。」
少々しつこい。ま、悪いやつではないんだけど。