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「どうだ!!!」
イツキが誇らしげに部屋にやってきて答案用紙を高々と掲げた。
「48点!?すげぇ!!」
「へへーん、まぁね、やればできる男なんですよ。」
「補習回避だ?」
「おう!神回避!んで約束の〜」
「ダッツな。はいはい。今から行く?」
「行く行くー!」
「ちょっと待ってな、準備するから。」
「はーい♪」
行儀の良い返事を背に支度をする。支度といってもそこのコンビニまで行くだけだし、財布とスマホだけあればいいか……

ぽこん
メッセージの受信音。
イツキのスマホだ。
イツキは画面に目をやり、すぐまたポケットにしまった。
ぽこん
「めっちゃ鳴ってるけど、いいの?」
もう一度画面を見たイツキは、申し訳なさそうにため息をついた。
「コウ、ごめん。なんか電話くるっぽい。ダッツ、明日でも良い?」
「俺は全然いいけど。」
「わりぃな。」
「いいって。」
「じゃー明日。」
「ん、明日な。おやすみ。」
「おやすみ。」
イツキの部屋の電気はその夜遅く迄点いていた。


パン……ッ
待ち合わせていた放課後の駐輪場で、乾いた音が響いた。
音のした方へ目をやる───イツキ、
それと、『ももちゃん』。
いつかの、青春のお手本みたいな甘酸っぱい景色とは違う。
「サイッテー。」
『ももちゃん』は吐き捨てる様に言って、走り去っていった。
項垂れたままのイツキにうしろから声を掛ける。
「イツキ。」
俺の声にハッと上げた顔は、頬が赤く腫れていた。
「ふられちった。」
へへ、と笑う姿が痛々しい。
「かっこわりーとこ見られたなー。」
「……ダッツ、買いに行くんだろ。」
「……行く。」


「なんも聞かねーの?」
「話したかったら、どうぞ。」
「うーん。話したいかっていわれるとちょっとちがう。」
 伏せた睫毛が揺れる。
「じゃ、いいよ。」
コンビニで買ったアイスを腫れた頬に当ててやる。
「ひっ、つっっめた!!」
「冷やしとけ。」
「……ん。」

俺達の高2の1学期はそんなふうに終わっていった。