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 アゾフスターリ製鉄所が危機に瀕していた。
 ウクライナ軍が抵抗を続けている2つの拠点のうちイリイチ製鉄所が制圧されてしまった今、持ちこたえているのはアゾフスターリだけだったが、それも風前の灯火なのだ。
 
 マリウポリ最後の砦となったこの製鉄所は、ヨーロッパでも最大規模の製鉄所でありながら地下要塞を併せ持つ堅牢(けんろう)な建造物であり、それはソ連邦時代にまで遡る。
 爆撃や封鎖、核兵器による攻撃の可能性までも考慮して建設されたものなのだ。
 そこに親衛隊と呼ばれているアゾフ大隊が立てこもってロシア軍と交戦している。
 千人規模と数は多くないが、士気が高く戦闘能力も優れており、2014年に東部の親ロ派武装勢力がマリウポリに攻め込んできた時に撃退したという武勇伝を残している。
 そのことから現在は国家親衛隊に属する精鋭部隊としてマリウポリの防衛を担っている。
 その彼らが立てこもっている製鉄所の地下空間には豊富な武器や弾薬が保管されており、多勢のロシア軍といえども安易に近づくことはできない。
 だから、ロシア軍の降伏要求にも応えず徹底抗戦できているのだ。
 
 しかし、ロシア軍の侵攻から2か月を迎えようとする中、その備蓄も厳しいものになっているに違いない。
 戦おうにも武器が限られているのだ。
 その上、負傷兵が多いと言われているし、その手当も十分にできていないようだ。
 更に、製鉄所の地下に避難している民間人千人への影響が懸念されている。
 その多くが女性と子供で、中には生まれて数か月の赤ちゃんもいるという。
 しかし、ロシア軍は容赦なく攻撃を加えている。
 民間人がいようといまいと関係ないのだ。
 圧倒的な兵力でねじ伏せようとしているのだ。
 このままではもって数日という悲観的な予測も出ており、一刻の猶予もない緊迫した状態が続いている。