ナターシャはヘッドハンティングという仕事に興味を持ったことはかつて一度もなかったが、アイラの話を聞いて一気に引き寄せられた。
 一民間人であってもプーチンに罰を与えることができることに気づいたからだ。
 それは、ロシア国民として果たすべき義務であるようにも思えた。
 
 しかし、労働ビザを持っていないのでトルコで仕事をすることはできない。
 観光目的でしか入国できないのだ。
 そのことをアイラに相談すると、今回はヘッドハンティングという仕事を理解することを主目的にすればいいのではないかと言われた。
 そうすることによって、本当に興味があるのか、適性があるのかということを確かめればいいと言うのだ。
 
 確かに、ヘッドハンティングという仕事は簡単にできるものではない。
 知識と交渉力と話術と経験が必要なのだ。
 やりたいと思ってすぐにできる仕事ではないのだ。
 
 しかし、だからといってトルコ行きを諦めることはなかった。
 ウクライナを救うために、ロシアを変えるために、何かをしないといけないと強く思っていたからだ。
 そして、ロシアを弱体化させることによって変革を促すことが可能だと知ったからだ。
 
 夫に相談はしなかった。
 反対されることがわかり切っていたからだ。
 最愛の男性と別れるのは辛かったが、平和な日本でぬくぬくと暮らし続けるわけにはいかなかった。
 祖国が極めて重い罪を犯しているのだ。
 その結果、なんの罪もないウクライナの人々が次々に殺されているのだ。
 いま行動を起こさなければ一生後悔する! 
 これは自分がしなければいけない戦いなのだ。
 なんとしてでもロシアを解体しなければならない。
 あの日、自らを突き動かした切羽詰まった思いは微塵も揺らぐことなく、いや、更に強固になって行動を加速させようとしていた。