一人部屋だった。
 相部屋は満室で入れなかったようだ。
 差額ベッド代がかかると言われたが、そんなことはどうでもよかった。
 他の人のことを気にせずにいられることがありがたかった。
 それに、夜遅く電話を受けるにも都合がよかった。
 間違いなくナターシャの母親からかかってくるからだ。
 ベッド横のサイドテーブルにスマホを置いて呼び出し音が鳴るのを待ち続けた。
 
 22時を過ぎた頃、スマホが着信を知らせた。
 案の定、義母だった。
 いま入院していることを伝えた上で、ナターシャが家を出て、どこにいるのかわからないことを正直に話した。
 
 義母は明らかに動揺していた。
 ショックを受けているようだった。
 そのせいか新型コロナの件に触れられることはなかったが、気まずい思いを拭い去ることはできなかった。
 電話が切れたあともそれはいつまでもとどまり続けた。