切  迫

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「ナターシャ?」 
 玄関に明かりはついてなかった。
 いつもなら迎えてくれる笑顔どころか気配さえないのだ。
 羽田に着いた時に送ったショートメッセージに返信がなかったのでおかしいなとは思ったのだが、まさか家に辿り着いた時にいないなんて考えもしなかった。
 
 リビングに入って照明のスイッチを押すと、テーブルの上に置かれたメモが見えた。
 急いで手に取ると、その瞬間、目を疑った。
 あり得ないことが書かれていたのだ。
 
『探さないでください』

 メモを持ってしばらく呆然としてしまったが、ハッとしてスマホの連絡先アイコンから妻の番号を表示させ、それをタップした。
 しかし、応答はなかった。
『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、または、電源が入っていないためかかりません』という録音メッセージが流れてくるだけだった。

 その理由は2つしか思い浮かばなかった。
 妻が故意に電源を切っているか、機内モードにしているか、そのどちらかだ。