「EUの経済制裁が判明いたしました」
 大臣と幹部が退室した4時間後、芯賀はメモを総理に渡した。
「ロシア産石炭の輸入を止めるようです。その規模は年間40億ユーロ、日本円にしますと5,400億円になります。更に、量子コンピューターや半導体などの先端技術を100億ユーロ規模で禁止します。また、ロシア産の木材やセメントなど55億ユーロ相当の輸入も禁止するようです」
 それ以外にも、ロシア船舶のEU域内寄港の禁止、富裕層や軍事部門の資産凍結やEUへの渡航禁止が盛り込まれていることを報告した。
「それだけではありません。石油禁輸についても調整を進めているようです」
 後追いの日本を嘲笑(あざわら)うかのようにEUの経済制裁は加速度を増していた。
 この先、天然ガスにも踏み込むだろう。
 完全禁輸は無理としても大幅削減に踏み切るに違いない。
 そうなると日本はますます遅れることになり、世界から取り残されてしまう。
 それは許されることではない。
 なんとしてでもロシア産の石油と天然ガスについて早急に代替スケジュールを作成しなければならないのだ。
「総理」
 声を出さずにはいられなかった。
 しかし、総理は落ち着いていた。
 そんなことは重々承知しているというように冷静な声で指示を出したのだ。
「すぐに経済産業大臣を呼んでくれ」