4月7日、国連総会が開かれた。
『ロシアによる重大かつ組織的な人権侵害に強い懸念を表明する』という文言と共に、ロシアが持つ理事国としての資格を停止する決議案が上程されたのだ。

 投票が行われ、すぐに議長から結果が報告された。
 賛成が93か国、反対が24か国、棄権が58か国。
 棄権と無投票が想像以上に多かったが、なんとか三分の二を超えて可決した。

 良かった……、
 芯賀は胸を撫で下ろした。
 もし、反対が47か国になっていたらロシアの資格停止ができない事態に陥っていたかもしれないからだ。
 本当にギリギリのところでの攻防だったことになる。
 
 しかし、賛成が100を切っているのが気になった。
 ブチャの惨状を目にしても反対や棄権に回る国がまだ多いのだ。
 それはロシアや中国に義理立てする国が多いということを意味していた。
 インドやパキスタン、ベトナムやブラジルなどが棄権したのはその影響だと思われた。
 それに、シンガポールが棄権したのが残念だった。
 国民の政治参加を大幅に制限する一党支配の国であり、かつ、中国との関係が深く、国民の三分の二が中国に好感を持っているので仕方がないと言えばそうだが、人道的観点から賛成に回ってほしかった。
 
 加えて、可決後のロシアの対応も気になった。
 予想していたとはいえ、人権理事会を脱退すると表明したのだ。
『違法で政治的動機に基づく措置だ』と息巻いたという。
 反省の色を示すことはまったくないのだ。
 もしかしたら屁とも思っていないのかもしれなかった。
 追い詰めても追い詰めても追い詰めきれないジレンマを感じてやるせなくなったが、沈んでいるわけにはいかなかった。
 更なる一手を打たなければならないのだ。
 この瞬間にも命を落とし続けているウクライナの人々をなんとしても救わなくてはいけないのだ。
 まだまだやれることはあるはずだ。
 モスクワの方角に視線を向けた芯賀は、自らに背水の陣を命じた。