どうにもできないジレンマに(さいな)まれたが、それを救うかのようにアメリカから連絡が入った。
 それは、ロシアを追い詰める大きな一手と呼べるものだった。
 ブチャでの惨殺行為に強く抗議するため、国連人権理事会の理事国としての資格を停止するよう求める決議案を国連総会緊急特別会合に提出するというのだ。
 
 人権理事会は47の国で構成され、各理事国は3年の任期を務める。
 ロシアは任期2年目で2023年まで理事国を務めることになっている。
 ただし、理事国が重大で組織的な人権侵害を犯した場合、国連総会の採決で三分の二以上の加盟国が賛成すれば資格停止の処分を下せることになる。
 
 芯賀はこの情報に小躍りした。
 また一歩追い詰めることができるのだ。
 加盟各国が良識ある判断をしてくれることを強く願ってニューヨークの方角に視線を送った。