総理の下を辞した芯賀の頭の中にはロシアとドイツに踏みにじられ続けたポーランドの歴史が鮮明に蘇っていた。

 バルト三国の南に位置し、ウクライナと国境を接しているポーランドはその名の通り『平原の国』で、国土のほとんどは広大な平原で占められている。
 面積は日本の五分の四ほどで、人口は3,800万人強。
 首都はワルシャワで、宗教はカトリック、言語はポーランド語である。
 建国は10世紀で、15世紀から17世紀には東欧の大国として君臨するが、18世紀末になるとロシア、プロシア、オーストリアの三国に分割され、第一次世界大戦終了までの123年間、世界地図から姿を消すという屈辱を味わっている。
 その後独立を果たすが、苦難はなおも続き、第二次世界大戦では総人口の五分の一が犠牲になるという最悪の事態を経験することになる。
 大戦後はソ連邦圏に組み込まれたが、活発な民主化運動により非社会主義政権が誕生し、ソ連邦から距離を置くことになる。
 そして、欧州への回帰を鮮明にした最近ではNATO加盟、EU加盟を続けて果たしており、西側諸国の一員として地歩を固めている。
 
 ここまで来るのがどれほど大変だったか、でも、だからこそウクライナのことを他人事だとは思えないのだろう。

 芯賀の頭の中には連帯という言葉が浮かんでいた。
 400万人と言われる避難民の6割を受け入れた迅速な対応がそれを証明しているに違いなかった。
 
 それに対してハンガリーは……、
 ロシアへの経済制裁どころかまったく非難をしないハンガリー首脳の言動に苛立ちを覚えた。
 野党が勝ってくれればいいんだが……、
 総選挙の行方が気になって仕方がなかった。