インドとオーストラリアが経済連携協定に暫定合意したというニュースが飛び込んできたのだ。
 それは、両国にとって最大の貿易相手国である中国への依存度を下げる狙いが込められていた。
 インドは中国と国境問題を抱えて度々武力衝突を起こしているし、オーストラリアも新型コロナ問題に端を発した経済的虐めを受けている。
 両国共に中国との関係が急速に悪化しているのだ。
 そのため、中国に代わる貿易相手国を必要としているのだ。
 
 外務省から届いた報告書には、オーストラリアからインドへの輸出品の85パーセント以上が関税撤廃になると記されていた。
 対してインドからオーストラリアへは更に高く、96パーセントとなっていた。
「これで、クアッドの連携が一層強くなる」
 満足げに総理が独り言ちた。

 クアッド(QUAD)とは、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国による安全保障や経済を協議する枠組みである。
 この4か国はインド洋と太平洋を囲むように位置していることから、中国の進出に目を光らせると共に、自由や民主主義、法の支配といった共通の価値観を守り抜くための役割も担っている。
 その背景には中国の巨大化がある。
 それは経済面だけでなく、軍事面でも脅威となるレベルに達しようとしている現状がある。
 GDPはアメリカに次ぐ世界第2位の規模になり、軍事費も26兆円を超え、アメリカには及ばないものの日本の4倍に相当する巨額になっているのである。
 対して4か国が手を組めば、GDPで中国の約2倍、軍事費で約4倍の規模になる。
 地理的にも経済的にも軍事的にも包囲ができるのだ。
「インドを更に引き寄せなければならない」
 総理が強い決意を(にじ)ませた。
 その時、外相からの電話が取り次がれた。