「そろそろ交渉が始まります」
 若い職員の声で現実に戻り、壁に掛かっている時計に視線を送った。
 あと10分ほどで始まるようだ。
 今頃イスタンブールではロシアとウクライナの交渉団が席に着いて交渉開始を待っているだろうし、なにより世界がこの交渉に注目している。
 今までとは違ってエルドアン大統領という大物が仲介を務める交渉なのだ。
 互いの言い分だけを言い合うパンチの応酬だけでは終わらないだろう。
 なんらかの妥協点を見出す努力が行われるはずだ。
 そうでなければ意味がない。
 そう考えるとこれから刻々と伝えられるであろう情報に対する期待と不安で落ち着かなくなったが、大きく息を吐いて不安だけを外に出した。
 
 必ずなんらかの進展がある。
 自らに言い聞かせて椅子に深く腰を沈めた。