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 ラヴロフと王毅(おうき)か……、

 国連日本政府代表部が入るビルの38階の窓から外を見ながら、誰に言うともなく不曲が声を漏らした。
 トルコで行われたウクライナとの停戦交渉の翌日、ロシアのラヴロフ外相が中国を訪れて王毅外相と会談を行い、厳しい国際情勢の中で両国の協力を拡大することで合意したという。
 外交政策の協調を強化し、国際問題について声を揃えて発言することでも合意したのだという。
 
 この期に及んでまた茶番を、

 独り言ちた不曲は3月10日に行われたウクライナとロシアの外相会談でのラヴロフの発言を思い出していた。

『我々はウクライナを攻撃していない』
『ロシアの安全が脅威にさらされている』
『これはロシアの生死をかけた戦いなのだ』
『これはアメリカ国防総省の実験だ』
『ロシアが戦争を望んだことは一度もない』
『人間の盾となって人質になっているウクライナの民間人を解放したい』
『ロシアは毎日人道回廊(じんどうかいろう)を開設している』

 すべてが鮮明に蘇ると、ムカムカしてきて黙っていられなくなった。

厚顔無恥(こうがんむち)野郎が!」

 思い切り抓っても痛くなさそうなラヴロフの顔を思い浮かべて吐き捨てた。