う~ん、
 エルドアンの顔を思い浮かべたが、笑みのないその顔からはなんの意図も読み取れなかった。
 2003年から10年余にわたって首相を務め、その後2014年から大統領の座に君臨し続けているしたたかな男が心の内を読ませるはずはないのだ。
 NATOに加盟しながらプーチンとも良好な関係を築くという曲芸的な手腕を発揮している一方、ウクライナと自由貿易協定を結んで武器を輸出している。
 その上、軍事用無人機の製造工場をウクライナに造るのだという。
 どうしてそんなことができるのか不思議でならなかったが、何故か一瞬プーチンとゼレンスキーの間で手を交差して両者と握手をしているエルドアンの姿が見えたような気がした。
 プーチンとゼレンスキーは目を背けていたが、エルドアンは満面の笑みを浮かべていた。
 
 一種の天才だな、
 交渉に()けた老獪(ろうかい)な手腕に一目置かずにはいられなかった。

 それはそうとして、
 3人の姿を脳裏から消して、エルドアンの意図に神経を集中させた。
 何かがあるはずなのだ。

 トルコにとってのメリットとは……、
 この交渉を主導することによって享受(きょうじゅ)する利益が必ずあるはずだと考えた芯賀は外務省が作成したリポートを手に取った。
 そこにはトルコの歴史とロシア及びウクライナとの関係、更に日本との交流が簡潔にまとめられていた。