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 それは突然のことだった。ロシアとウクライナの停戦交渉をトルコのエルドアン大統領が主導したのだ。
 場所はイスタンブールで、双方が合意しているという。
 実現すれば、対面での交渉は久方振りとなる。
 
 しかし、双方の主張は大きく隔たっている。
 ロシアがクリミア半島の主権と東部2州の独立を求めているのに対し、ウクライナは領土分割を認めるつもりがない。
 それにロシアが求める非軍事化に応じるつもりもない。
 唯一ウクライナが妥協する可能性があるのが中立化だ。
 NATOへの早期加盟を断念することで停戦に持ち込もうとしているのだ。
 しかしそれも米欧にロシアを加えた周辺諸国によって安全保障が確約されることを条件としているので、簡単にはいかない。
 
 となると……、
 芯賀は自問したが、妥協点を見出すことは難しかった。
 両国の隔たりが余りにも大きすぎるからだ。
 プーチンが求めているのは単なる中立化ではない。
 中立、かつ、非軍事化、かつ、クリミアのロシア主権、かつ、東部地域の独立の承認なのだ。
 すべてが揃ってワンセットなのだ。
 個別の合意で良しとするわけはないのだ。
 
 それでもエルドアンが動いたということは……、
 なんらかの進展の可能性を見出したということになる。
 プーチンとも事前に協議した上での交渉なのだ。
 物別れに終わればエルドアンが恥をかくことになる。