緊  迫

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 またか、
 顔をしかめた不曲が苦々しく吐き捨てた。
 北朝鮮によるミサイル発射が続いていた。
 しかし、単に続いているだけではなかった。
 今年に入って11回目となる今回の脅威は格段に大きかった。
 世界最大級の移動式ICBMと言われる『火星17型』が発射されたのだ。
 それも、最高高度が6,000キロを超え、1,090キロの距離を1時間7分以上飛行するという過去最高・最長を記録したのだ。
 これはアメリカの東海岸を含めた全米が射程に入る事を意味している。
 つまり、アメリカへ圧力をかける意味合いを持っているのだ。
 すなわち、バイデン政権への揺さぶりであり、対ロシアで手いっぱいになっているアメリカへの挑発だった。
 そのことを不曲が指摘すると、首席補佐官が大きく頷いた。
「確かに。バイデン政権が対中国に加えて対ロシアという難問を抱えて身動きできない状態になっているのを見透かしているんだろう。それに、ウクライナを反面教師にしている。核兵器をロシアに渡してしまった時点で戦争抑止力を失くしてしまったと分析しているに違いない」