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 ナターシャも夢を見ていた。
 クレムリンを見渡せるモスクワ川の(ほとり)で夫と共に(くつろ)いでいる夢だった。
 大事な記念日の今日は温かく、最高気温が20度を超えるとの予報が出ていた。
 それに、街は静かだった。
 独裁者の演説も軍事パレードもなく、Z旗を振る国民もいなかった。
 ロシアが解体された日、祝日から『対ドイツ戦勝記念日』はなくなり、代わりに『平和の日』が制定されたからだ。
 
 先ほど夫と歩いた公園ではライラックとリンゴの花が見ごろを迎えていた。
 それは紫と白が織り成す花のページェントと呼べるものだった。
 更に、木々の下はまるで絨毯(じゅうたん)を敷き詰めたようにタンポポの黄色い花がびっしりと覆っていた。